バブルの頃まで、香港旅行というと女性ならショッピングを思わせたものです。最近、韓国、台湾などアジアのお金持ちは日本へショッピングに来るらしいという情報を聞いて、確かにそれらしき言葉はデパートなどで耳にするものの、在日の方もいらっしゃるし、ショッピングにわざわざ日本に来た人か見分けがつきません。
先月と今月、香港から女性の出張客があり、それぞれ約1週間滞在しましたので、彼女たちのショッピングぶりを観察することにしました。まず、先月はある小売店チェーンの購買担当者で責任者は30になるかならないか、ナンバー2は女子大生と言っても十分通用するほどです。職業柄、時間があれば小売店をのぞいてしまうので、そこで気にいったものがあると雑貨などついつい買ってしまい、とうとうスーツケースを1個調達するはめになりました。なんとホテルの近くのJRの駅前のショッピングセンターで中国製を1万円で買いました。彼女たちによると、中国製は香港でも当然買えるもののデザインがいいものはすべて輸出向けなので自分たちは買えない、とのことでした。お店の販1売員の方も「中国や香港の方がよく買われるんですよ。不思議ですけどね。」
かつて80年代の前半にニューヨークでデパートめぐりをした時のこと、気に入ったデザインのカップがあり、底を見れば日本の有名ブランドであったり、当時一世を風靡した日本人デザイナーの輸出向け衣料は日本で売っているものとまったく違い格段に垢抜けており、日本人をなめているのかと思ったことを私は瞬時に思い出しました。世界の工場と化した中国でも、外貨稼ぎに良い商品は作られ、国民には商品が豊富に出回っていないことがうかがわれます。
今月やって来たのはアパレルの縫製メーカーの副社長とマーチャンダイザーの女性。副社長と言っても9歳の男の子の母親です。同社では世界の有名ブランドをいくつも手がけていますが、ある米国ブランドなど3年間サンプルを提示し続け、やっと受注したのがたったの1500枚。それでも今は米国市場向けにメキシコに工場を建てるほどの辣腕です。ファミリー向けのカジュアル・ブランドに行けば、1店舗毎に10点近く、ある日本人デザイナーブランドのお店では30分もしないうちにセーター、パンツ、バッグなど20万円買い、休みの日にはカリスマ美容室に行ってみたいとのこと。一方、岐阜の卸問屋で1着500円のパジャマを10着近くも買って来たりと、彼女いわく「日本は高いブランドもたくさんそろっているし、安いものも選択肢が豊富。」と大のご満悦でしたが、増えすぎた荷物にちょっぴり不安げでもありました。
正直なところ、モノにあふれた日本に住んでいる私には毎日一緒に歩きまわってもわざわざ買いたいものはほとんどありませんでした。旅先での非日常感も手伝うのでしょうが、彼らにはまだモノがない、というのが私の感想です。
それにしても、香港、中国、東南アジアと女性の社会進出、それも責任ある立場に女性がずらりと並ぶ昨今、接待は飲食ではなく、お買い物のお付き合いになりそうです。一緒にやって来た香港の貿易会社の社長(男性)は自分も買い物を楽しみながら荷物も持ってあげ、試着の批評と実に手馴れたものでした。日本人男性には今後お買い物接待術の研修が必要かも知れません。
2002.08.22
河口容子