[015]運命の力、お金の力

 「運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にあり」戦国時代の武将のような気持ちでいつも海外出張には出かけます。鎧は着てはおりませんが、準備を怠るな、気を抜くなと帰国する最後の瞬間まで自分に言い聞かせております。そして、よく動くこと、今年は国際機関の仕事でマレーシア、インドネシア、そしてフィリピンに行きましたが、いわゆる通常のビジネスの出張とは一味違った経験をたくさんさせていただきました。また、中国と香港へも行くことができ、これはビジネスとして着実に成果があがっています。
 特に運命の力を感じるのは香港人のビジネス・パートナーとの業務提携です。投資家の兄弟で、兄の学者の方と数年前、まだ会社員だった頃上司の紹介で出会いました。その後、時々メールを交換したりするだけでしたが、6月に彼らのニュービジネスに関する協力依頼があり、1週間もしないうちに弟の弁護士と契約書を作り、10月には彼らの企業グループのジャパン・オフィスの代表になっていた、という按配です。運命がぐんぐん私を引っ張って行く、そんな感じで、不安や不信感は一切ありませんでした。


 私たち3人は投資家兄がクリエイティブな発想と資金力、弟が法的なチェックとキラ星のごとくの人脈を使い、私が交渉や実務を担当するという役割分担になっていて、似た者どうしの集まりでは決してありません。時には激論バトルのメールが香港―広州―東京間を飛び交います。ましてや香港の上場企業を相手に交渉しているのは海を隔てた所にいる私であり、香港人のアシスタントに遠隔操作で指示しているのも1時間時差のあるところにいる私ですから、まさに時空を超えたチームといえます。
 そして同時にわかったお金の力。零細企業の私の会社も総合商社(しかも私の在籍していた会社より上位です)から仕入れ、その貨物量に驚いた担当者が挨拶に来ると大騒ぎです。私たちはビジネスのやり方にそれなりのこだわりと意味があるので、やみくもにビジネスをするわけではありませんが、とにかく無我夢中で商品やサービスを押し込みに来る人、人、人…それだけ不況なのかも知れませんが、資金力がつくと今まで気さくにつきあっていた人たちまでが急にお姫様扱いをしてくれ、うれしいような寂しいような気分を味わいます。
 私自身がお金持ちではなくてもこんな状況なので、彼ら自身はさぞ気が抜けないことと思います。以前、広州で夜ミーティングをするのに3人だけになった時、思わず一斉に出た安堵のため息とお茶をすする音。この共感に一人っ子の私にも兄弟ができた思いで、これにも不思議な運命の力を感じました。
河口容子