[050]国際見本市の舞台裏

 昨年の10月 4日号「日本最大の見本市」で東京インターナショナルギフトショーを取り上げましたが、1年後の今年は出展者側です。私が現地で選定してきた業者が国際機関のブースに出展するため、商談の成果があがるようアドバイスを行うのが仕事です。
 昨年はこの国際機関の違うイベントを担当したのですが、開幕前に気になるのは自分が現地で指示したとおりの商品が届いているかどうかです。これは海外の出展者側のやる気の問題で、今年の最悪パターンは売れると言ったものを持って来ず、売れないものばかり持って来た企業。ベストはアドバイスしたとおり全部作り変えて持って来て、パンフレットや名刺まで日本向けにパステルカラーの美しいものを用意してきたところです。
 開幕直前に起こった不安はある国で 4社出展するうちの 2社がVISAが取れず来れないかも知れないという情報でした。開発途上国で日本へ行くVISAを取るというのは大変むずかしいことです。この国では書類の不備など本人のミスとは限らずいくらでもありそうですし、3ケ月分の預金通帳のコピーを提示しなければなりません。要は収入がなければ不法就労のおそれがあるし、多すぎればマネーロンダリングなどの嫌疑をかけられ、といった按配です。一時は商品の展示だけで終わってしまうのかと心配しましたが、開幕には全員そろいほっとしました。


 このブースは一般企業のブースと違い、オフィス機能を備えています。まずスタッフたちのロッカーや会議テーブル、コピー機を入れるオフィスが受付の裏に作られます。また、海外からの出展者に対しては電話、eメール、コピー機が使えるカウンターも設けられます。
1社に着き 1人通訳がついているのですが、彼らは面談者の全記録を取らねばならず、名刺の整理も含め良き秘書役です。面談者を一人でも増やそうと商品説明を自分で作って貼ったり、ディスプレイに少し手を入れたりと各自必死にサポートをしてくれます。私自身も彼らに商品の説明や選定の基準などを話し、また出展者には日本での商習慣や売り込み方などをアドバイスしていきます。
 不思議なもので同じ国の出展者どうしは連帯感が生まれ、説明につまると隣の出展者が助け船を出したり、休憩で不在の時は隣の人が代わりに商談をやっていたりします。こういうところがアジア人らしいと思える瞬間です。
 「日本人ほどお天気に文句を言う国民はいない」と最近読んだ2冊の本に異口同音に書いてありました。今回は落雷で電車が不通、展示会終了後帰る足を止められるという事態が起こりました。案の定、日本人は不平たらたら。外国人出展者たちは、日本人よりは困ったはずですし、疲れてもいたはずなのに誰も文句は言いませんでした。「あれは台風なの?」とたずねる人が何人かいたくらいです。天災地変は神の御業という受容の気持ちが日本人には足らないのかもしれません。  無事に成果もあがり閉幕。記念にと何人かにカメラを向けるとそこには青空のような笑顔がこぼれていました。この笑顔が私の努力に対する最大のご褒美です。
河口容子