取引先の役員で毎年フィリピンにゴルフに行くのを楽しみにしておられる方がありました。時には奥様も同行されます。もちろん料金が安く、キャディさんがギャラリーのごとくいっぱいで、日傘をさしかけてくれる人、冷たい水の入った水差しをお盆に持ってついて来る人、汗をぬぐってくれる人と至れり尽くせりのサービスのようです。「日本ではこんな贅沢はもうできないのだから、途上国は気分がいい。」という発言に、世界各地の途上国でいくつも工場を立ち上げ、現場で指揮をしてきた経験の持ち主にしてこんな発想なのかとかなりがっかりしました。それを悟られ「少しのお金で豪遊できてどこが悪いのか、彼らだってお金がもらえなかったらもっと貧乏になるのだ」とまで言われました。確かにおっしゃるのは事実で、それがひどく悲しかったのを今でも忘れません。
日本人の多くは途上国に行くと、つい日本の物価と比較して「タダみたいに安い」と欣喜雀躍、ついついお金をばらまきます。しかし、冷静に考えると現地の人からみればとんでもなく高いものだったりします。インドネシアや中国の高級レストランで 3-4人で食事をすれば日本よりははるかに安くても、現地の工場労働者の 1ヶ月分の給料の金額だったりします。五つ星のホテルにしても東京のホテル代と部屋の狭さから考えると嘘みたいですが、現地に暮らす普通の人はそんな所に泊まるなんて想像もしたことがないでしょう。日本人からみればつかの間とはいえ、極楽ですが、経済格差というマジックの上に乗っかっただけの話で何も自分が偉いわけではありません。日本ではごくごく普通、途上国に来たとたんいきなり大金持ちと錯覚して横暴に振舞う日本人たちの姿は現地の人にはどのように写っているのでしょうか。
6月にジャカルタを去る朝、現地の友人夫婦と食事をしました。その日のニュースは40代の日本人男性が20歳のインドネシア女性を殺害したという辛いものでした。殺害された女性はこの男性と結婚する予定だったそうです。私が帰国後新聞で見た情報では別のインドネシア女性ともつきあっていたということでしたが、おそらく日本にも妻子がいるのではないかと感じました。
インドネシアの大都市の高級ホテルでは堂々と現地妻を連れた欧米人をよく見かけます。現地の女性から見れば自分たちの何十倍もの月収の人と結婚できたらどんなに裕福に暮らせるのだろうと錯覚するようです。これも経済格差のマジックです。その実、日本人と結婚して日本で暮らし始めたところ、住宅ローンに終われ、先妻との間の子どもの養育費負担、言葉もわからないし、周囲に差別されるというので逃げ帰った例を2件ほど知っています。
先日も 100-200名規模の日本人団体観光客が広東省の珠海の五つ星ホテルで乱交パーティを開いたとして国家的な問題となりました。「みんなで渡れば怖くない」「旅の恥はかき捨て」の日本人らしい事件とも言えます。しかし、こういう事件は先進国で起こるでしょうか?相手は途上国だから、自分たちは金持ち面をして安く遊べる、偉いんだという驕りがこんな国際的に恥ずかしいニュースとなったような気がしてなりません。
最近は途上国へ行く機会の多い私ですが、同じ人間として心を通いあわせ尊敬しあえる関係をひとりでも多くと築き上げたいといつも願っています。
河口容子