[066]人生は「出会い」

 私が会社員になって初めての1977年のお正月、新年の挨拶で本部長に言われたことを今でも忘れません。「1年たってその前の1年にくらべ何か新しくできるようになった事がいくつあるか言えるように毎日を送りなさい。」当時その本部長は50歳のなかば近く、眠る暇もないほど忙しい人であっただけに、指を折りながら新しくできるようになった事を話す本部長に「さすが出世をする人は違う」と尊敬と驚きを覚えました。
 24年の会社員生活で「仕事がつまらないから辞めたい」と思ったことは幸い一度もありませんでした。後年気づいたのですが、何にでも興味が持てる性格のおかげでしょう。簿記の概念のなかった私は伝票もよくわかりませんでした。これはきっと「学べ」というめぐり合わせだと思い、通信教育で勉強し商業簿記2 級まで何とか取りました。入社したときは船舶を輸出する部署に配属されましたので、同期の男性が上司にもらった船舶工学の本をこっそりコピーさせてもらい暇さえあればその本をながめていました。そのうち造船工学専攻の先輩が図を描いて教えてくれたりするようになり、たちまち新造船の英文契約書をチェックするのは私の仕事になってしまいました。契約書の中に船の仕様が入るからです。事情があって私しか営業に行けない案件があり、上司や先輩に教えてもらいながら、1 年近くかかって海洋構造物で12億円の契約ができたということもありました。バイヤーはレバノン在住のギリシア人、向け地はサウジアラビアでしたが、大学を出たての女性がよくそんな荒業ができたものだと未だに不思議です。人や案件とのめぐり合わせの力に他なりません。


 その後も経営企画部に在籍していた時は経営学の通信教育、営業で家具を取り扱っていたときはインテリア・コーディネータの勉強、宝飾品を取り扱っていたときは宝石の勉強、と雑学はエスカレートします。自分が放っておいても興味を持ったかというと、そうではない事柄だけに「今学ばなければ自分は一生学ぶチャンスがない」と学ばずにはいられなくなるのです。
 「出会い」というのは何も人ばかりではありません。言葉であったり、事柄であったり、モノであったりします。そして、それらは人の運命をも変えてくれます。
 小口輸入塾の受講生で4月から大学の工学部で都市環境デザインを学ぶことになった主婦の方がおられます。彼女は最初「左ききの人用グッズ」を輸入しようとしていました。ところが、なかなか輸入先が見つかりません。そこで「ユニバーサルデザインというコンセプトに広げたらどうですか」とアドバイスしたところ、彼女はユニバーサルデザインに興味を持ちはじめ、大学に社会人入学で合格しました。この小口輸入から都市環境デザインへ、起業から学生への急転換にご主人も二人のお子さんもびっくりされたようです。彼女からは私のアドバイスが自分の人生を変えてくれたと、お礼のメールをもらいましたが、この「出会い」を捕まえる感性と行動力、そして感謝できる心に私は喜びと勇気をもらいました。
 私の2004年は1月中旬のブルネイへの旅から始まります。2003年6月にも行きましたが「最初で最後」という月並みの予想は簡単に打ち破られました。人、モノ、事柄すべての新しい出会い、そして再会が楽しみです。
河口容子
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