[221]季節はずれの誕生日プレゼント

 ベトナムでセミナーを1昨年、昨年と計2回行なっていますが、帰国後しばらく気になる事があります。現地での報道状況です。ベトナムは社会主義国ですのでジャーナリストが自由に報道することはできず、ましてや政府機関が主催するセミナーですから悪く報道されることはあり得ませんが、どんな切り口でどんなメディアに出ているのか当人としては興味しんしんです。
 1昨年のセミナーでは、休憩時間に2社から取材を受けました。この記事が数日後に出て、このふたつの記事が金太郎飴のように各種メディアに2ケ月くらい次々と転載されていきました。まさに洗脳するがごとくです。日本なら2ケ月もすればどんなインパクトの強いニュースも忘れ去られているでしょう。
 昨年は速報が翌朝の新聞に載っており、その記事をYahoo!のシンガポールもオーストラリアも取り上げていましたのでかなり即時性は増し、ベトナムが周辺国に与える影響が増したといえます。インターネットで英文検索をして記事探しをするのですが、2006年11月30日号「千年を越える思い」で書かせていただいたように農業分野とも関連があることから、農業系のメディアにも登場するようになりました。さらにベトナムのフランス語新聞に私の名前が出ているのも発見しました。不思議なことに昨年の 8月16日付で偶然にも私の誕生日です。まさに季節はずれに(といっても気づいたのが遅かっただけなのですが)誕生日プレゼントをいただいたような気分でした。1昨年のセミナーは9月ですから1年近くもたってセミナーの記事が出るのはあまりにも変ですし、昨年のセミナーは11月で、日程すらこの記事の時点では決まっていませんでした。となると内容をどうしても確認したくなりました。
 フランス語は大学時代第三外国語として履修しましたが、単語をすっかり忘れているため翻訳ソフトを使って読んでみました。案の定、思わず吹き出すような和訳がしばしば登場するものの内容を理解するには十分でした。「手工芸業者たちの挑戦」という題のこの記事は、EU、米国、日本というベトナムの3大市場への課題という秀逸なものでした。ところで「手工芸品」とは何?と日本でよく聞かれるのですが、文字通り手で作るもの、ベトナムでは竹、木、草、つるなどの加工製品、刺繍・ビーズ製品、絹製品、べっ甲・貝殻などの細工物、漆製品、銀をはじめとする金属細工製品などをさし、これらをひとまとめにした産業分類があります。日本で言うならば人間国宝級の方が作るものから素人でも見よう見まねで作れるものまでを含むまさに混沌とした世界です。
 EUについては、納期、フレキシビリティ、アフターサービス、メーカーの信頼性が課題となっており、私自身は特にあとの2点については先進国が途上国に求めるには限度があるような気がしますが、逆にEUの輸入者は大手が少なく、消費者に対しそこまで保証ができないと読み取りました。
 米国については、品質と手ごろな価格の実現、生産量、総販売代理店が課題となっています。おそらく大手量販店をターゲットとしているのでしょう。米国の大手量販店で扱う家庭用品ならトライアルで1億円くらいの発注は珍しくありません。手工芸品は機械生産と違い大量受注をすると納期がかかるばかりではなく、非熟練者も狩り出しての人海戦術となり品質のばらつきが出るという問題点があります。また、大口の発注を取りまとめる総販売代理店の能力も重要なポイントです。
 日本については、私の名前がコメンテーターとして引用され、手工芸職人の魂を表しているような伝統的で独創性ある商品、季節需要を考慮した商品開発、少量多品種対応が課題となっています。おそらく1昨年の講演内容を再利用したものと思われます。伝統商材、芸術的な商品については日本がベトナムの輸出相手国のトップになったそうで、このくだりも嬉しい誕生日プレゼントのように思えました。
河口容子