「貿易コンサルタントなんて職業は聞いたことがない」と私が起業したとき周囲の人たちはかなり不安視しました。しかしながらニーズがないことはないと確信し、誰もやっていない職業ならば競争が少なくてすむと私はプラスの方向に考えました。よくある職業というのは市場も大きいのでしょうが、それだけ競争が厳しいはずです。案の定、当初簡単にクライアントは見つかりませんでしたが、はまり役の仕事があれば競争はほとんどありません。評価さえしていただければそれが関係者にも伝わり自然にお声がかかるので、特殊な技術者や職人芸の世界に似ている気がします。営業活動や広告宣伝に経費も時間もかける必要がありませんので素晴らしく効率的です。おかげで、経理処理から事務用品の手配、郵便物を出す、法人税や消費税の申告にいたるまですべて1人でやっています。
先月末、ある経済研究所からあるテーマについてタイとベトナムに関する調査報告作成というお仕事の依頼をいただきました。アセアンの専門家というのを先方がご存知だったからです。現地に行く必要はないものの作業期間は 3週間弱しかなく、他の重要案件をいくつか持っているのでこれひとつに専念もできません。仕事の内容としては大変興味深いものでしたし、おそらくこの仕事をこなせるのは日本で数人いるかどうかです。理由としては土地勘があり、英語と日本語を自在に操れ、PCの必要なソフトを使いこなせ、ビジネスマンの実務的な観点からの分析や提案をまじえながらのレイアウトにまとめあげなければいけないからです。お断りしたら相手も困るだろうというのがまず頭にありました。
母が元気な頃は朝 5時ごろまで残業して仕事を間にあわせるのは何ともありませんでしたが、 2年前に母が目の病気を患って以来、庭先のアパートの管理も含め家の仕事のほとんどは私の担当です。また、急に病院について行かねばならないこともあるので時間の余裕は残しておかねばなりません。おまけに自分自身も体調が万全とは言えませんでした。そこで取った解決策は、同業の知人にコラボをお願いすることでした。責任と報酬を折半して、私を時間と体力消耗から解放し、かつ、互いの専門性を補完しあう事により、さらに良いものを作るのが目的です。
成果が残せれば、今後の発展性へとつながります。サラリーマンの場合はきちんとした理由さえあれば多少の失敗があっても職を失うことはまずありませんが、私たちのような独立したコンサルタントとなると失敗すれば、他の仕事にも影響しかねません。これはと思った仕事は逃がさず、それも必ず成功させる必要があります。物理的に難しい、でもやりたい、という場合、コラボはまさに力です。
コラボに必要なのは「人選」です。今回上記の方にお願いした理由は、英語力と貿易のスキルはもちろんのこと、この方の持つ専門性が調査目的と一致すること、タイのビジネスに詳しいこと、そしていつも時間に几帳面な方であることです。60歳を越しておられるのに私が教えていただくほどPCの達人であることがわかったのも嬉しい誤算でした。プロ同士が持てる能力を存分に発揮しながら協働、発展する、これがコラボです。また、お互いのスキルや経験への尊敬や協調性も美しいコラボへの秘訣です。
日本では経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)は大企業に集約されており、昨今は大企業どうしの合併や提携も多く、ますます弱肉強食の産業構造になりつつあります。私のような小さい企業が生き残るには「高度な専門知識」「提案力」「フレキシビリティ」が勝負、日々の研鑽と時には効果的なコラボの力が不可欠です。
河口容子