昨年の秋ごろから日本製品を扱っている複数の香港企業から「既存の取引先に問題があるので新しい取引先を探してほしい」という依頼が直接、間接を問わずありました。私は「問題とは何なのか明確にすること、不満に思っている事について改善策がないのか既存の取引先と話しあっても解決できないのならお手伝いはさせていただきます。」と答え続けました。
香港の中小企業のオーナーたちは儲かると思えばいとも簡単に新しいビジネスを始めます。日本人が株式取引で売買差益を稼ぐような感覚です。なぜ実業にこだわるかと言うと「株式市場は自分ではどうにも操れない、自分の会社なら自由に操れるから。」と日本人の知人が冗談半分に教えてくれました。簡単に始めるだけあって、途中で相手にだまされているのではないかと疑い比較をしたくなり冒頭のような依頼につながることもあります。日本ではビジネスを始める前に仕入先を比較検討するのにもたもたした挙句の果てに「やっぱりやめておこうか」となるケースも多く、ここが国民性の違いだと感じます。
香港人が「問題がある」という場合は彼らに取って好ましくない状態にあるというだけで日本の取引先も問題として受け止めているのかどうか疑問です。たとえば日本人なら価格や取引条件に問題があるなら取引先と話しあい折り合いがつかなければ取引先を変える事を検討します。もし他社から好条件の話を持ち込まれても既存の取引先に同じ条件にすべく検討する機会を与えたりします。日本人はいったん構築した良い関係を維持しようと努力する義理がたい国民性とも言えるし、逆に保守的で変革を好まず、癒着につながりやすいという風土を作ります。
もうひとつ彼らに即協力しようという気にならない理由は「自分たちに問題がないか」というチェックをしていない事です。私がわかっているだけでも社内の処理やコミュニケーションの問題、商品や業界の知識、ビジネス・スキームの組み立て方など山ほど改善する余地はあります。あきらめているのか、どうせ次々と目新しいビジネスに飛びつくのだからどうでも良いのかも知れませんが、「内省的でない」というのは進歩につながりません。日本人も同じで「政治が悪い」「社会が悪い」「会社の制度や方針が悪い」とあたかも自分は正しい、ないしは被害者であるかのように言う人たちがたくさんいます。無責任で気楽かも知れませんが、自分はどうするべきか考えない限り進歩はないはずです。
カー・デザイナーのご出身で名古屋在住の工業デザイナーの Y先生に近況をおたずねしたところ、自動車関連の二次、三次下請けメーカーには脱自動車の動きがあり、航空機や医療機産業へシフトしつつあるそうです。また、環境関連のお仕事もふえているとか、これらは何年も前から取り組んできたものだそうです。やはり大所高所から物事を見ている人たちはきちんと準備ができているわけです。先生いわく「この不況が終わる頃は社会の価値感は変わっているはずです。」と。私もまったく同感で、逆に日本も日本人も変わらなければ永遠に不況から抜け出せないでしょう。
河口容子
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