[341]10年目にして思うこと

この 5月10日をもって起業10年目に入りました。丸9年間での印象深い出来事は自宅の改造 2回、母の病気、私の手術とプライベートな事ばかりです。もともと母の高齢化を考え、家事をしながらたった一人でどんな仕事をいつまで続けられるかという実験も兼ねての起業でしたが、外にはオフィスをかまえない、 365日営業体制、で臨んできたからこそ達成できたとも言えます。
 年に 1度、信用調査会社からデータの更新用に電話がかかってくるのですが「社長のところはもう長いから安心ですよ。」とお世辞半分に言われます。私自身は決して「長い」とは思っていませんが、起業してもほとんどが 1年もたたないうちに消えていくそうです。
 会社員の頃からの知人である流通コンサルタントが「そろそろリタイアしかかっているから客観的にものごとが見えるのだけれど、あなたは中国への日本製品の輸出といい、ベトナムといい、いずれも他人に先駆けてやって来たからすごいなあと改めて思うよ。」と言ってくださいました。「私の会社は小さくてニッチなサービスを提供していますから、軌道に乗っている大きな仕事や誰でもやれるような仕事はいただけません。だから芽はあるけれどまだ皆が見向きもしないような所からしかお声がかからなかっただけです。」と私は笑って答えました。「それはやっぱり商社で培った勘があるからだよ。」確かに基本動作は商社で教わったと思うものの、一人企業だからこそ信用第一、自分の使命や社会貢献を意識しながら仕事をしてきました。また、尊敬でき、信頼できる相手を慎重に選んできたため、そこから人脈がどんどん広がったような気がします。
 2002年から日本の中流の少し上の層が好んで買いそうな紳士服、婦人服、ファッション小物、インテリア小物、ギフト・アイテムなどを香港、中国向けに輸出し始めましたが、周囲からは「日本でも買えない人がいっぱいいるのに中国でそんなものが売れるとは思えない。」とよく不思議な顔をされたものです。昨年からは日本酒の輸出をスタートしました。中国は地域ごとに嗜好や消費性向が違うのと、日本人より熱しやすく冷めやすい案外難しい市場のような気がします。また、日本ではだいたい欧米の高級ブランド-日本製品-途上国の安価な商品という商品構成になっていますが、中国では日本製品は欧米製品と対等に比べられるわけですから、中国市場内での競争もおのずと厳しくなります。「衣」関連ではお金持ちはインターナショナル・ブランドを優先的に買い、日本製品については品質が良く割安感があれば買う、という感じのようで、日本製品は品質やデザインが良いから買う、珍しいから飛びついて買うという時代はもうとっくに過ぎ去っています。
 香港も含めて中国の小規模投資家にとってはライセンス・ビジネスやフランチャイズ・ビジネスに関心が集まっています。私がパートナーをお引受けした香港のコンサルタント会社も日本や欧米のライセンサーやフランチャイザー探しに大忙しです。お金を持っていても投資するネタがないのでしょう。「共同出資なんかしていらないかわりに口は出すな。ただし、必要な事はしっかり教えて。」という按配で、まさに人民元札で頬をたたくような勢いです。
河口容子
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