[277]日本産に安全性を求める中国

 香港のビジネスパートナーの所有する企業の中に日本の食材の輸入・卸会社があります。日本の卸売市場から魚や野菜を香港へ空輸して香港の日本食レストランに供給するのが仕事です。私自身は取引に直接関与していませんが、時々意見を求められることがあります。
 「最近のニュースによれば、春節(旧正月)の休みで中国の富裕層が一家そろって日本に旅行に来て、5つ星ホテルに泊まり、買い物ざんまい、高級料理を楽しんでいるようです。事業拡大のチャンスですね。」と私が言うと「グローバリゼーションと中国経済の成長のおかげ、それに贈収賄と権力のおかげで中国の富裕層は本当に豊かだよ。これにはまったくむかつくね。若い頃、自分は自由と民主主義の推進者だと自負していたけれど、最近は格差社会に加え守銭奴のメンタリティを見せ付けられるにつけ、病気になりそうな気がする。悲しいことに僕のほうが中国共産党よりはるかに社会主義者で共産主義者じゃないかと思うことすらあるよ。」この会話は50分も続いたIP電話のチャットの一部ですが、「怒り」のエモーティコンが点滅していました。
 香港パートナーは50代後半の香港生まれの香港育ちですが、両親は広東省の貧農の出身です。子どもの頃は夏休みになると両親に連れられ本土に帰ったそうですが、本土の親戚にあげるために暑いのに何枚も服を着せられて行った、という話を聞いたことがあります。苦学して香港大学を卒業、学者から投資家になりましたが、大邸宅に住んではいるものの、奥さんは高校で英語教師を続けているし、いたって堅実なライフスタイルの持ち主だけに「一気に成金主義になった最近の中国人」の変化率に驚きと落胆の色を隠せないようです。
 この成金主義のおかげか、日本のお米が1,500円/kg、りんごが1個2,000円、イチゴが何と1粒 300円で売れたりする市場になっています。2005年の日本の農水産物の輸出は 3.310億円とのことですが、相手国は米国が21%、香港が20%、中国が17%と続き、香港と中国を含めたアジア諸国で75%にもなり、農水省は2013年までに総額1兆円の輸出を目標にかかげています。シンガポールでも巨峰1パックが 5,000円で売れるという話を聞いたことがありますので日本の庶民の食卓からは想像のつかないような世界です。
 香港人をも含めた中国人がなぜ高くても日本の食材を買うかというと、もちろん物珍しさ、ステータス・シンボル、おいしさ、美しさというのもあるでしょうが、安全性というのもかなりのウェイトを占めています。もともと中国は医食同源のお国柄、食べ物と健康ということに非常に配慮します。少なくとも中産階級以上は安全性と栄養バランスを考えた「質」を食に求めています。
 一方、日本ではメタボ対策が話題になっているにもかかわらず「大食いタレント」が続々出てくる、「話題性」や「ブランド」にふりまわさる、あるいは安全性は多少犠牲にしても経済性を優先する、外食・惣菜・ケータリングなど安易なほうへ流れる傾向が強く、「健康的な食生活」からどんどん遠ざかっていくのを危惧せざるを得ません。
河口容子
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