2007年 8月30日号に出てくるベトナム人キャリアウーマン Nさんの今回の日本出張は長く、東京―千葉―大阪―東京と暑い中を男性の部下を連れての八面六臂の活躍でした。最後の東京でギフトショーに行くというので、会場で待ち合わせて一緒にお昼を食べることにしました。今度は私がごちそうする番だと言うと、「日本に住んでいるベトナム人女性も一緒に行くのでいいでしょうか?彼女は元ベトナム大使館の商務参事官の奥さんで、いろいろお世話になっています。」と彼女。どなたかしら?と思って待ち合わせ場所に行くと、ハノイ市駐日代表部代表の Vさんでした。顔なじみです。世の中は狭いと言うべきか、日越関係に係る層がまだ薄いと言うべきか。
Vさんは 4年日本に住んでおり、お子さんも日本の学校に通っています。もちろん日本語にもまったく不自由しません。彼女に日本についてどう思うかたずねてみました。まず、日本人は礼儀正しすぎるのか、形式主義におちいりがち。「すみません、すみません、と言う割には笑っていてちっとも悪いと思っていない。」「ありがとう、と何度も言うがただの形式に過ぎないのではないかと思うことがある。」と鋭い指摘です。確かにこの手の口先三寸、心のないビジネスパースンは日本には山ほどおり、おまけに口の巧さを自負しているふしもあったりで、もともと歯の浮くようなお世辞は言えず、駆け引きの嫌いな私は怒り炸裂することもしばしばです。
彼女は続けます。「ベトナム人は大袈裟にありがとうと言わないけれどここぞと思う時はきちんとお返しをします。」確かによく「相手があなただからやってあげるのであって、他の人ならしない。」と言うせりふを耳にしますが、私はそんな事を言う人は信用できません。本当にそうならそれは口にせずとも当人どうしが十分わかっているからです。 Nさんも知り合って 3年目ですが、まさにそういう仲です。
Vさん、次は食物について。「日本は何でも冷凍だから料理を作ってもおいしくないです。ベトナムではみんな生だからおいしいです。」確かに肉でも魚でも冷凍保存したのを解凍して売っているケースは珍しくありません。消化器系統の弱い私は食べ物に非常に敏感です。実は外食をした場合、アセアン諸国より日本のほうが具合が悪くなる確率が高いのです。おそらく、保存料や化学調味料、使い古した油のせいだと私は思っています。
最後にお決まりの質問「なぜ日本人はメイドを雇わないの?ベトナムならちょっとした家ならメイドを雇うので奥さんはすることがないから仕事に行きます。」これぞ香港やアセアン諸国で耳にタコができるほど聞かされる質問です。人件費が高い、メイドのなり手が少ない、という理由は皆知っています。私が思うに戦後の日本では皆平等となり、個人に雇用されるのは上下関係がつくようでプライドが許さないから報酬が高くてもなり手が少ないのだと思います。また、 Vさんの言うように日本は形式主義で人間関係もホンネとタテマエは違う。一見、仲良さそうでも、陰では悪口を言われたり、足を引っ張られたりしています。あるいはおとなしくて礼儀正しい人が殺人犯だったりします。最近は家族内でも危険なのに他人まで入れたらどうなるのかという不安もあります。
「ベトナムも発展するのはいいことだけれど、何か毎日追い立てられているようで落ち着きません。不便でも昔ののんびりした社会を懐かしく思うことがあります。」得るものがあれば失うものがあるのは世の常ですが、日本は失ったものが多すぎて思い出しもできないような状態なのではないかとふと思いました。
河口容子
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毎年ラフィダ・アジズ国際通商産業大臣をリーダーとするマレーシア貿易・投資ミッションが極東ツアーの一環として日本にやって来ます。昨年は東京で開催されませんでしたので 2年ぶりに某ホテルで開催されたセミナーに出席しました。
さすが閣僚がミッション・リーダーというだけあって官民60名ほどのメンバーからなり、事務局が非常に入念な準備をしているのにいつも感心します。複数の機関からご案内をいただくのですが、参加申込を行なうと東京の事務局であるマレーシア工業開発庁東京事務所から書面(封書)で申込の御礼が来ます。東京だけで数百名の参加者だと思いますので大変な事務作業だと推察します。この集客力はやはり主催者がいかにきちんとした後援団体を集め、チームワークで告知をするかにかかっています。
そして当日の資料が充実していること。もともとマレーシアはパッケージ・デザインなどに非常に優れているお国柄だけあって、政府機関が出している刊行物のデザインも洗練されています。紙も分厚くて高級感があります。ミッション・メンバーのリストブックが実に良くできていてメンバー全員の顔写真に連絡先、所属する機関や企業の概要、各地でのプログラムにちょっとした統計数値までついています。小さな手帖くらいの大きさですが、記念品をいただいたような気分になります。
日本の経産相の挨拶があるのもこのセミナーの特徴ですが、私が参加しただけでも平沼、中川、甘利と大臣は変わってきており、ラフィダ大臣の在職20年というキャリアはいかに有能かつパワフルな女性であるかを物語っています。日本人の講師が彼女を「マレーシアのセールスレディ」と評しましたが、ジョークを飛ばしながら、決してキレイ事は言わないのに憎めない、これは実務能力と経験に裏打ちされた自信のなせる技でしょう。彼女の歴史はマレーシアの産業の歴史でもあり、女性の社会進出の歴史でもあるような気がします。残念ながら最近の日本の女性閣僚には彼女ほど迫力のある人は見当たりません。
マレーシアは投資先として政治、経済、社会が安定しており、エネルギーコストが安い、ハイテク産業が多く、サポート体制が整備されている、英語のスキルが高いというメリットがあります。また、生活環境もアセアンの中では快適です。昨年は日本からの投資が復活、すでに投資している企業の多角化、R&D 、物流などに再投資がすすんでいるそうです。
マレーシアには外国人を対象とするいわゆるロング・ステイ・ビザがあります。現在11,000人の外国人がこの「マイ・セカンド・ホーム・プログラム」を利用しているものの、日本人はまだ 440人だけです。ラフィダ大臣いわく「マレーシアにはアジアがあります。マレー人、インド人、中国人など多くの民族が共生し、活力の源となっています。中国も日本もアジアではありません。シンガポールみたいな小さいところもアジアではありません。」とまさにラフィダ節炸裂。おまけに「私の泊まっているホテルの 1泊分でマレーシアに 4泊できますよ。航空運賃も入れてね。マレーシアのホテルは本当に安いの。安かろう悪かろうじゃなくて、中味も良いんです。皆さん来てくださいね。」
このセミナーの最後に独立行政法人中小企業基盤機構とマレーシア中小企業開発公社(SMIDEC)との協力関係構築に関する覚書締結調印式がありました。今後は日本の中小企業からの投資や中小企業どうしの技術、販売、人材育成などにおける提携に注力したいという事ですが、単なる情報交換や助成金の管理窓口で終わってしまわないよう二国の中小企業の相互発展のために真摯に取り組んでくれることを期待しつつ私は会場を後にしました。
河口容子
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