先日、ベトナム商業省チャン・デュック・ミン副大臣をリーダーとするミッションが来日、貿易セミナーと商談会が行われました。ご存知のようにベトナムは今年から WTOに正式加盟し、市場解放を加速させようとしています。2006年の GDP伸び率は8.17%、輸出金額も前年比22.1%増加しました。日本向けの主な輸出品は水産物、紡績製品、木材、手工芸品、靴、サンダル、電線、パソコン、パソコン部品、プラスチック製品、石油、石炭などです。
ベトナムにおける外資プロジェクトは約 7,000件、総投資金額(認可ベース)は約 628億米ドルです。日本からの直接投資は認可ベースで 764件、総投資金額は77億米ドルです。その中で約 340件が稼動しており、年間総売上は30億米ドル以上、10万人の直接労働者、数十万人の間接労働者の雇用につながっています。認可ベースの投資額ではシンガポール、韓国に次いで 3位ですが、既に投資された額では日本がトップです。
外資の力を借り破竹の勢いで成長しているベトナムが「戦略的パートナー」と呼ぶのは世界で日本ただ 1ケ国しかありません。面積が日本の 8割ほどで細長く、アセアン諸国の中では最も文化的にも日本と相容れるところが多く、風貌も近いような気がします。ただまったく違うのは人口構成で現在8500万人の国ですが、30歳未満(ベトナム戦争終結後に生まれた人たち)が 7割で、中国とは違い「二人っ子政策」、10年後は 1億人になり、若い力に満ちているところから市場としても非常に有望です。私が接する限り、親日的かどうかは別として反日・嫌日感情を持つ人はまず見当たりません。
かつてベトナムでネギを植え、安価な労働力を利用して「乾燥刻みネギ(インスタントラーメンなどについているもの)」を日本に輸出して一儲けした日本人の話を聞いたことがありますが、普通のメーカーがベトナムに工場を建てるならば日本など先進国が開発した工業団地に入らざるを得ず(標準設備を持つレンタル工場も団地内にはありますが)まとまった金額の投資を必要とします。こういった工業団地では停電に備え複数の電源を備え、風水害を防ぐ設計、排水用地下パイプライン、レストラン、給食サービス、税関、通関業者などの設備が整っているからです。だいたい日系の工業団地はすでに満杯、 1ケ所に何十社も日系企業が入り「日本村」を形成しているケースがほとんどです。彼らのほとんどは日本市場のみならず、インド、中国といったアジアの超大国やアセアン諸国の経済発展によるアジア市場の急拡大に目をつけているはずです。
一方、いわゆるチャイナ・リスク?電力不足、人手不足(定着率が低い)、人民元高、人件費の高騰、政治的不信、反日運動など?を懸念して、自社工場を持つレベルではないものの調達先を中国からベトナムへ(一部でも)シフトしたいという中小企業もふえています。しかしながらベトナムでは周辺産業が発達途上であり、ベトナム国内では素材が整わないものもあります。中国と比べれば距離も遠いので、輸送にかかるコストも時間もかかり、腰が引けてしまうのがほとんどです。特に商品のライフサイクルが短く、少量多品種展開が必要な業界においてはリスクを知りつつも中国頼みをしなければならないようです。そういう企業に限って万一に備え、ベトナムで準備を始めるという余力もありません。
だまされもしながら中国生産のおかげで生き延びてきた日本の中小企業も少なくないと思いますが、「ベトナム(ないしは中国以外のアジアの国)へ進出できるかどうか」が各企業にとっての真の国際化のベンチマークだと思います。
河口容子
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シンガポール国際企業庁から依頼され日本進出を希望するシンガポール企業をお手伝いするようになって約1 年たちます。まずは経営者の方と直接お会いしたり、メールでコンタクトをし、可能性につきお話をすることからスタートします。多民族の都市国家とあって、上場企業であっても日本でいうところの大企業はほとんどありませんし、経営者が創業者ないしはその一族というケースが多く意思表示が明確でスピーティです。また、歴史的に欧米、中国、インド、アセアン諸国とのつながりが深く、地理的にもオーストラリア、ニュージーランドまでカバーが可能ですので、小さい企業でも国際的にビジネス展開をしています。その一方、日本のビジネス慣習や市場の特性の情報がまだまだ少なく、戸惑ったり、じれったがったりの連続です。
今回はシルバー・ジュエリーの会社の社長が来日しました。イタリア人のお名前だったので「純粋なイタリアの方ですか?」とお聞きすると、ローマで生まれ、ナポリ、ヴェネツィア、カリフォルニアで教育を受け、シンガポールで起業、もう住んで18年とのことです。事業を日本のみならずイタリア、オーストラリア、マレーシア、インドネシア、ベトナムへ拡大しようとしています。土着根性の強い日本人から見ればローマ帝国やマルコ・ポールの末裔、何と国際人であることか。中には「放浪癖」とやっかむ人もいるかも知れませんが。
日本人で複数の外国で仕事をしたり住んだ経験のある人は外交官や駐在員のように所属する組織の命を受けて行くケースがほとんどで、海外で起業しそれを他国へ広げようとする日本人は数えるほどしかいません。日本人はもともと「リスクを取ることに弱気」あるいは「保守的で安定を好む」傾向にあるのかも知れません。
別の観点から私が興味を持ったのはシンガポール国際企業庁という政府機関がイタリアから来た起業家を支援していることです。以前、香港貿易発展局に韓国系のメーカーを紹介していただいた事がありますが「韓国人の企業でも香港に法人があるから遠慮しないでください。喜んでお手伝いします。」と言ってくれました。日本も最近やっと外国からの資本誘致ということで外国企業のためのサービスを強化していますが、それまでは日本に現地法人があろうと日本の政府機関がサポートする対象ではありませんでした。
シンガポールは75%が中国系、14%がマレー系、 9%がインド系、残りがその他という人口構成になっています。上記のイタリア人経営者は「その他」の組に入りますが、私が契約をしているリサーチ・コンサルタント会社の社長は客家系にマレー系やタイ王室の血がまざっており、2007年 5月31日号「東洋医学の再発見」で触れた漢方薬メーカーは広東人の一族です。日本人でもシンガポールに住み起業している方を何人か知っています。国際都市香港でも95%が漢民族ですからシンガポールはまさに百花繚乱といった感じです。
このイタリア人も「シンガポールはいろいろな国の人と人脈ができ交通の便も良いので国際的展開する起業にはうってつけ。でもある日突然海外に簡単に出て行ってしまう人も多いから。」とぼやきました。私自身も起業当時はジャカルタで華人である友人とその知人たちとニュー・ビジネスを計画していたのですが、ある日突然知人たちは家族そろってカナダへ移住し、友人のほうもニュージーランドに移住した時の事を思い出しました。彼らは皆現地でセレブな暮らしをしていただけに白人優位の先進国へ行けば困ることも多いと察します。この辺りの決断力と行動力は日本人である限り理解し得ないものがあります。
河口容子
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