[241]イタリアン・シンガポリアン

 シンガポール国際企業庁から依頼され日本進出を希望するシンガポール企業をお手伝いするようになって約1 年たちます。まずは経営者の方と直接お会いしたり、メールでコンタクトをし、可能性につきお話をすることからスタートします。多民族の都市国家とあって、上場企業であっても日本でいうところの大企業はほとんどありませんし、経営者が創業者ないしはその一族というケースが多く意思表示が明確でスピーティです。また、歴史的に欧米、中国、インド、アセアン諸国とのつながりが深く、地理的にもオーストラリア、ニュージーランドまでカバーが可能ですので、小さい企業でも国際的にビジネス展開をしています。その一方、日本のビジネス慣習や市場の特性の情報がまだまだ少なく、戸惑ったり、じれったがったりの連続です。
 今回はシルバー・ジュエリーの会社の社長が来日しました。イタリア人のお名前だったので「純粋なイタリアの方ですか?」とお聞きすると、ローマで生まれ、ナポリ、ヴェネツィア、カリフォルニアで教育を受け、シンガポールで起業、もう住んで18年とのことです。事業を日本のみならずイタリア、オーストラリア、マレーシア、インドネシア、ベトナムへ拡大しようとしています。土着根性の強い日本人から見ればローマ帝国やマルコ・ポールの末裔、何と国際人であることか。中には「放浪癖」とやっかむ人もいるかも知れませんが。
 日本人で複数の外国で仕事をしたり住んだ経験のある人は外交官や駐在員のように所属する組織の命を受けて行くケースがほとんどで、海外で起業しそれを他国へ広げようとする日本人は数えるほどしかいません。日本人はもともと「リスクを取ることに弱気」あるいは「保守的で安定を好む」傾向にあるのかも知れません。
 別の観点から私が興味を持ったのはシンガポール国際企業庁という政府機関がイタリアから来た起業家を支援していることです。以前、香港貿易発展局に韓国系のメーカーを紹介していただいた事がありますが「韓国人の企業でも香港に法人があるから遠慮しないでください。喜んでお手伝いします。」と言ってくれました。日本も最近やっと外国からの資本誘致ということで外国企業のためのサービスを強化していますが、それまでは日本に現地法人があろうと日本の政府機関がサポートする対象ではありませんでした。
 シンガポールは75%が中国系、14%がマレー系、 9%がインド系、残りがその他という人口構成になっています。上記のイタリア人経営者は「その他」の組に入りますが、私が契約をしているリサーチ・コンサルタント会社の社長は客家系にマレー系やタイ王室の血がまざっており、2007年 5月31日号「東洋医学の再発見」で触れた漢方薬メーカーは広東人の一族です。日本人でもシンガポールに住み起業している方を何人か知っています。国際都市香港でも95%が漢民族ですからシンガポールはまさに百花繚乱といった感じです。
 このイタリア人も「シンガポールはいろいろな国の人と人脈ができ交通の便も良いので国際的展開する起業にはうってつけ。でもある日突然海外に簡単に出て行ってしまう人も多いから。」とぼやきました。私自身も起業当時はジャカルタで華人である友人とその知人たちとニュー・ビジネスを計画していたのですが、ある日突然知人たちは家族そろってカナダへ移住し、友人のほうもニュージーランドに移住した時の事を思い出しました。彼らは皆現地でセレブな暮らしをしていただけに白人優位の先進国へ行けば困ることも多いと察します。この辺りの決断力と行動力は日本人である限り理解し得ないものがあります。
河口容子
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