[299]今年も香港人と夏

2007年 8月16日号「香港人と夏」では私にとっての夏は最近「香港人」がテーマとなりつつあることを書きました。今年も梅雨明け前から暑い毎日でしたが、やはり香港人がやって来ました。2008年 6月19日号「夢への挑戦」に出てくる香港のD氏が急に来日することになったのです。
「もしお時間があればデザイナーのH先生と一緒にミーティングをしたいのですが。急な話でお時間がなければかまいません。あなた方が誠意と情熱を持って取り組んでくださっているのは十分わかっています。心配だからミーティングをしたいのではありません。デザインが出来ているのがあれば見たいし、プレゼン用のビデオ制作の話やサンプルづくりの方法について話しあいたいだけです。」D氏は私より10歳くらい年下ですが、こういう配慮にあふれた人です。H先生のオフィスのある駅の改札でD氏と落ち合いましたが、彼は開口一番「暑いですね。」「香港の方でもそう思われますか。」「黒い雲が出ているから一雨きそうですね。涼しくていいな。」私はヒートアイランド現象のことなども説明しました。「香港だってそうです。海側の摩天楼は景色がいいけれどそれに遮られた内側は本当に暑いですよ。」
一方、H先生も素敵なイタリアンのレストランを予約してくださったり、プレゼンの準備をしてくださったり、とお忙しい中万全の体制です。私たちがコーディネートしている中国でのデザイン・コンペには日本の17名の若いデザイナーと学生が参加してくれますが、学生は夏休み前の課題に追われ、社会人はそれぞれの仕事をしながらの参加ですので彼らはもっと暑い夏を過ごしているのかも知れません。
H先生の作品集が気に入ったD氏は「機会があればまたプロジェクトを組みますから」と言い、私とはすでに新しいプロジェクトを立ち上げようとしています。
そこへ香港のビジネス・パートナーからメールがありました。先日、仕事で必要な書籍を一式調達してあげたばかりです。日本の果物を輸入してみたいというのです。2008年 4月17日号「新たなチャレンジ」では酒類の輸出にチャレンジしましたが、その延長線上にあるようです。「先日親戚から白桃を1箱もらいましたが、それは美しくて大きくておいしかったですよ。近くだったら差し上げたのに。」「うーん。桃いいねえ。」
実は私を忙しくさせているのは香港人たちだけではありません。シンガポール政府から 2案件プロジェクトをいただいています。別にやらせてください、とお願いしたわけでもないのにいつの間にか私がやることになっているのです。2007年度の統計では一人当たり GDPはとうとうシンガポールが日本を抜きました。日本は40何年ぶりにアジア 1位の座を明け渡したことになります。為替の問題もありますが、香港にもうすぐ抜かれるでしょう。
統計というのは数字のお遊び的な要素もありますから一喜一憂することはないと思いますが、香港やシンガポール企業に見積を提示すると「安い」と言われ、「途中でやめられても困る」と増額させられることもしばしばです。私の方針でどこの国に対しても同じ内容の仕事なら同一料金を提示していますが、その国の景気を測るものさしにもなります。もともと日本の中小企業に気軽に活用していただけるようにと低い価格を設定したのですが、いつの間にか日本の中小企業にはほとんど払えないものとなってしまったことです。これは憂うべき現実です。

河口容子