9月の第1週めは秋の訪れを告げるインターナショナル・ギフトショーの開幕と言いたいところですが、毎年残暑が厳しく日本人はへばっていますが、アセアン横丁の住人たちは元気いっぱいです。インドネシア、タイ、ベトナムとどんどんブースが増えるため今年は横丁どころか大通りの感がありました。
ブルネイからの2社は過去に招聘先選定業務で訪問した先です。1社は刺繍製品で日本のグッドデザイン賞を受賞した女性がオーナーです。今回はお嬢さんと一緒の来日で、お嬢さんがブースで記念写真を撮ってくれました。彼女は素材と刺繍糸とのカラーコーディネートやデザイン・コントロールに抜群のセンスを見せます。来日のたびに日本向けにパンフレットや名刺のデザインを改良して持参するという努力家でもあります。
マレーシアのステンレス製のアクセサリー・メーカー。社長とは2年ぶりの再会ですが覚えていてくれて日本に代理店ができたことをうれしそうに報告してくれました。
ベトナムの商社では先月の私のセミナーに来られた個人事業主の女性が刺繍製品の商談中。この商社の女性マネージャーは日本語が堪能、頭が良くて努力家です。日本人女性はいろいろサンプルを作って持ってきてくれたことに大感激。マネージャーのほうは白に真紅の刺繍のアオザイ姿で私を見つけるやいなや腕を取って「紹介してくださってありがとう。」女性どうしで商談に花が咲いたようです。このベトナムの商社は日本の総合商社にも輸出しているような大企業ですが、こうして個人事業主のリクエストにもきちんと応える姿勢には頭が下がります。マネージャーとは商談後、歩きながらお土産の交換。昨年の秋以来何回か会っているせいかすっかり仲良しです。
インドネシアのエリアでもはや常連さんともいえる女性を発見。ジャカルタにブティックを持っていますが、最近バリにもお店を出したとか。彼女は来日するたびに日本のファッション雑誌を山ほど買って帰り研究するので日本人の好みを知り尽くしています。バティック布できたぬいぐるみの小さなカメさんをいただきました。「思ったより重いんですね。」「海の砂が入っています。」インドネシアでもカメは長生きのシンボルだそうです。カエルのモチーフもよく見かけますが、誰に聞いてもこれはあまり意味を持たないようです。
国際機関の休憩所でコーヒーをいただいているとタイのブースの女性がやって来て女の子の形をしたピンバッジを差し出し「これをどうぞ。その代わりに名刺をください。」あとで商談記録を提出しなければなりませんので、名刺は最低限必要です。ピースマークのようなニコニコ顔でブースから出て来てはコーヒーテーブルをふいたり、スプーンをそろえたりで、「明日、お菓子を持ってきてここで1ケ100円で売ろうかな」などとジョークを飛ばすので出展者の中でも人気者です。
そうこうするうちにベトナムの貿易促進機関の部長が私を探しに来てくれました。昨年現地でセミナーをやらせていただいた際にお世話になって以来です。ハノイ貿易大で日本語を専攻した彼は日本語がぺらぺら。「いつもベトナムのためにありがとうございます。」とお土産をくださいました。実は4月にハノイを自社の仕事で訪問したついでに貿易促進機関の皆様に日本のお菓子を差し入れました。オフィスが改装中で仮住まいであったため場所がわからず、若手スタッフの携帯電話に電話をかけ通りまで取りに出てきてもらいました。重要な会議中のようでしたが、会議メンバーのひとりはこの部長ですから、そのときのお返しかも知れません。上述の商社のマネージャーといい、ベトナムの方は義理堅い方が多いようです。
河口容子
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2005年12月8日「続 アセアン横丁の人々」
2004年9月18日「アセアン横丁の人々」
[200]スパゲティ・ボールとアセアン諸国
アジア域内外のFTA(自由貿易協定)は「混戦した電気コード」あるいは「スパゲティ・ボール」と呼ばれるほど複雑になっています。東・東南アジア諸国のFTA 交渉では、現在三つのトラック方式、1) WTOやAPECのような世界的な枠組み、2)地域的(ASEANなど)3)二国間のような多層的なアプローチを採用しています。主として関税の引き下げ交渉を目的とする国際条約により、自由な経済活動や市場の拡大、経済効率の増大、国内経済改革の加速化をめざそうというものです。
先日はタイの投資セミナーが都内の某一流ホテルで開催されました。チャクラモン工業省事務次官の講演もあり、定員 300名が満員。タイはもはや中進国で産業構造のバランスが良い国です、農水産物も豊富ですし、自動車産業も裾野まで広がっています。ハード・ディスク・ドライブは世界一の生産国です。タイのある工業デザイン会社の雑貨は日本でブランドとして売られているくらいですし、伝統的な工芸品も健在です。
たとえば、タイのホンダはアジア大洋州の12ケ国46法人、 6駐在員事務所の統括機能も持っています。また、アジアの生産拠点であり、 FTAを駆使してマレーシアやフィリピン、インドネシアと分業を行なっています。 「FTAの更なる進展によりタイは有利か」との質問に同社の責任者は「より良い製品をより安く作れる所、そして物流の便利な所へと拠点が動いていくであろう」との回答をされました。現在タイでは地域によっては法人の免税期間が8年もあり、利益を再投資や他国の投資へまわすことが可能です。だいたい東南アジアの各国では外国からの投資に対する優遇策を設けており、法人税の免税期間があることが多く、これを利用していけば生産拠点を点々として法人税は長期間ゼロにすることが理論上は可能な訳です。国際的なビジネスを行なっている日本企業の日本にある本社機能がだんだん小さくなり、税収面で将来問題が出てくるのではないでしょうか。
一方、シンガポール、マレーシアといった東南アジアのすでに発展している国々もうかうかしていることができません。中国のみならず、最近はインドの脅威も感じているはずです。ここ2-3ケ月の間にシンガポールやマレーシアの企業が日本オフィスを開設するので日本人スタッフの確保も含めて手伝ってほしいというような話を各国の政府機関や上場企業から数件いただいています。製造業の場合は、該当する製造分野で一定年数の経験があり、英語ができることが最低条件ですが、団塊の世代が定年を迎える今にはありがたい現象だと感じています。
ところが、東南アジアの企業だからと甘く見る人、申し分ない経歴であっても英語ができない、オフィス立ち上げのような起業家的な部分の仕事には不安を感じる、などなど企業は国際化しても日本人個人個人はなかなか国際化していない事への寂しさを感じる昨今です。
河口容子