[188]アセアンがくれるLOHASな暮らし

 最近、LOHAS(ロハス)という言葉をよく耳にされませんか?Lifestyles of Health and Sustainability の略で健康を重視し、持続可能な社会生活を心がけるライフスタイルをさすのだそうです。大量生産、大量消費が続いた先進工業国では、環境破壊が進み地球規模での取り組みが話し合われるようになっています。機械化、情報の氾濫は便利かつ快適な暮らしをより多くの人にもたらしましたが、それと同時に都市生活者には自然とのふれあいが少なくなり、過去には想像すらできなかったような犯罪もふえ、ストレスフルな毎日を送っています。精神の健康も問題視されています。
 そのライフスタイルを端的に表わすと、環境に配慮し、予防医学を心がけ薬に頼らない。ヘルシーな食品やナチュラルや製品を使う、自己啓発のために時間を使う、というもので、現在静かなブームを呼んでいるものは、これらのいずれかにあてはまるような気がします。そしてLOHAS に関心を示す人々は何となく知的、都会的、ゆとり、ナチュラルでやさしい生き様を感じさせます。
 先日、銀座のアセアンセンターで「ヘルス&ウエルネス展」が開幕しました。アセアン諸国からのSPA 用品や健康食品が展示されています。アセアンならではの輸入品というと海産物やフルーツ、その加工品、家具、工芸品が代表選手でしたが、アセアン版漢方薬からおしゃれなパッケージの化粧品、工芸品を想わせるバスローブに至るまで新たな有力商品ジャンルの誕生です。アセアンは多様性の宝庫で、国ごとに政治、歴史文化はもとより、経済格差も大きいのですが、それが小さな商品からも窺い知ることができます。日本は食品や化粧品に関しては厳しい輸入基準や制度を持っていますので、輸入者や販売者の手によりどのように進化していくかもこれからの楽しみです。
オープニング・セレモニーに招待されましたが、アセアン諸国から駐日大使を始めとする外交団の列席もあり、テープカットのかわりにインドネシアやマレーシアで儀式に使われるゴングを主催者と駐日カンボジア大使が交互に打ち鳴らすというLOHAS なものでした。テープ屋さんには怒られるかも知れませんが、せっかくつながっているものを「切る」のは私にはどうにももったいなく、また縁起が悪く、かつごみになるので、何度も使え、ナチュラルな響きのゴングに大賛成です。ただし、装飾を施された木枠にぶら下げられたゴングは輸送コストがかかるのが難点ではあります。
 アセアン諸国は観光地としても有名なスポットがたくさんあり、観光客が触れるアセアンはたしかにLOHAS な世界ですが、一方では環境問題そっちのけで工業化競争が進んでいます。彼らが豊かになってほしいと思うものの、彼らの日常の中にあったLOHAS をいつまでも失わない事を願っています。
河口容子

[183]バッチャンお宝鑑定

 ハノイ市内にはあまり観光名所がなく、ちょっと時間があれば陶芸の里バッチャンに足を伸ばすことになります。2005年10月20日号「ベトナム特集3 バッチャン焼のふるさとへ」で概要については触れましたが、昨年は台風の中、今回は快晴。ハノイから少し山へ登っていくような感じになるのですが、道中は牛たちがあちこちで草をはんでおり、のどかで懐かしい景色です。
 バッチャンでは、店先に並んだ製品のみならず、気軽に工房に入り製造工程を見ることができるのも楽しみのひとつです。今回はぐるぐると歩きまわって見ましたが、観光用の牛車があるのを発見。女性がひとりで牛をひきまわしていましたが、屋台のような車で中に腰掛が向かい合わせについています。また、リヤカーに発動機つきの自転車がついた車で土などの材料が運ばれていくのも見かけました。ポン、ポン、ポンと音は威勢が良くてもスピードは出ず、ベトナム風時代劇のセットのような集落には良く似合う乗り物です。
 古美術を展示したちょっとおしゃれなカフェを見つけました。お寺の境内を思わせる展示場の横が庭になっていて木製のガーデンセットに座り、飲み物を注文することができます。見学気分で入りこんだ私たちに若い女性が出てきて「どちらから?」「日本です。」「教えていただきたいことがあるんですが。」「何でしょう?」「実は家で大事にしている小皿があるのですが、 100年くらい前にベトナムにあったものです。中国製か日本製かわからないのですが、真ん中に女性がいて後ろに男性が4人いる絵です。とてもきれいな絵で好きなのですが、何の絵だかおわかりになりますか?」真っ先に思い浮かんだのは七福神でした。「全部で七人ではありませんでしたか?日本では七福神というのがあり、ひとりは女性です。」「いいえ、全部で5人です。」5人というと5人ばやししか思い浮かばないので「同じ衣装を着ていましたか?」「いえ、それぞれ違います。それに真ん中は絶対女性です。」
 別にお茶を飲むつもりではなかったので、そのままぶらぶら歩きを続け、帰り道にまたカフェの前を通ると先ほどの女性が門のところで待ちかまえていました。「あのう、よろしければお茶を飲んで行かれませんか。弟がそのお皿を家から持って来る途中です。10分ほどですので。」この日は30度を越えていたでしょう。歩くとじわじわ汗が出てきます。庭で緑茶をいただいていると弟さんがお皿を持って来ました。いかにも古そうなものです。金があちこち使われていますがもう黒ずんでいます。お皿の中央上部に丸に十字の薩摩藩の紋がついているものの、ちょっといびつです。顔や衣服もどこか中国風ですが、裏の銘には山の下に漢数字で「七」、その下に左から右に「大日本」と読み取れます。高尚な趣味のない私は「ごめんなさい。私にはわかりません。日本では一般的には見かけない図柄です。日本に帰って専門家に聞いてわかったら連絡をします。」彼女はメールアドレスを書いてくれました。「ごちそうさま、おいくらですか」カフェですので代金を支払おうとすると「いいんです。こちらがお引止めしたのですから。」と弟さんや従業員と笑顔で送り出してくれました。
 帰国後、さっそく工業デザイナーの Y先生に写真を送りました。先生は日本の伝統工芸の産地で教えたりもされているのできっとご存知だろうと思ったからです。先生によると 80-100年前のもので中国から日本向けの輸出品の中に同じような絵柄を見たことがあるとのこと。真ん中は観音様で周囲の男性は将軍というモチーフだそうです。一方、インターネットで調べると骨董品として価値のある国産の「大日本」というのは「大日本○○」という長い銘のもので、縦書きです。彼女のお皿は中国製のコピーだったのか、それとも量産品だったのかよくわかりません。金銭的な価値がどうであれ、 100年も前にこのお皿がベトナムにわたり、ずっと大切にしてくれていた人たちがいる事のほうがずっと貴重だと思いました。読者の方でその辺にお詳しい方がいらっしゃいましたらぜひ教えてください。
 ハノイ滞在中はほとんど小雨か曇りで暑さはさほど感じませんでしたが、最後のバッチャン行きは強い日差しの中を歩きまわったせいもあり、かなり体力を消耗しました。帰国後、ミーティングをさせていただいた方々にお礼のメールを出しましたが、ある日系企業のハノイ支店長からのお返事はこんな言葉で結ばれていました。「本日からは本格的な暑さとなり気温も30度を超え湿度も大分高くなってきました。短い春が終わり夏を迎えたようです。」
河口容子