日本のクライアントとベトナムのハノイへ行って来ました。すでに中国でものづくりを行なっているクライアントがチャイナ・リスクを避けるため、ベトナムでもものづくりをしたい、ということで、国際見本市であるVietnam Expo 2006を視察したり、日本企業進出の関係者を訪問してその可能性を探るのが目的です。
なんとノイバイ空港に到着すると、雑踏の中で目ざとく私を見つけ、やさしい微笑で迎えてくださったのはベトナムの貿易機関No.2のB氏でした。海外出張中と聞いていただけにこんな所で出会うとはびっくりです。 2月下旬も東京のセミナーでも偶然お会いしたばかりで、ご縁の深さに感動しました。
昨年の 9月に講演で行って以来、ハノイは東南アジアの中でもお気に入りの街です。空港から雄大なホン(紅)河を渡るあたりの緑あふれるのどやかさに次いで現れる、建設ラッシュの光景は力強い発展の音が聞こえて来るようです。
市内は湖が点在し、街路樹が深々と緑のカーテンのようです。青や黄色の壁を持つ古いヨーロッパ風の家並み、その中をバイクの集団が勢いよく駆け抜けて行きます。最近は日本人も交通事故に巻き込まれる事がふえたと聞きます。
ハノイは小さな街ですので、なるべく歩くことにしています。大型ショッピングモールもあれば、裸電球のぶらさがった小屋のような店舗、はたまた果物や野菜のみならず下着などを天秤棒にぶら下げて売り歩く女性もいます。夕方になると広い歩道はカフェ状態。湖の畔は散歩コースですが、若いカップルあり、高齢者の散歩姿あり、グループで話している姿あり、ときわめて健全な夕涼み光景となります。
今回は居酒屋へも行ってみました。入口に「出前いたします」と日本語で書いてあります。中にはアオザイ姿のベトナム女性しかいませんが、 100以上ある日本語メニューをちゃんと聞き取れるのにはびっくりしました。お客さんには日本人もいますが、ベトナム人も結構いました。クライアントと私で約3000円強のお勘定でしたが、民間人のサラリーが7000円、公務員が8000円のお国で、こんな所へ来れる人はどんな職業なのでしょう。帰り際には入口の外にいる男性従業員が自動ドアよろしくあうんの呼吸で戸を引いてくれます。客引きをする一方、時々中をのぞいてはお客さんを送り出すタイミングを図っているようです。
前回飲みそびれた、ベトナム風コーヒー、コンデンスミルクの上にコーヒーを淹れた「カフェ・スア」をおしゃれなカフェ・レストランでベトナム語で注文してみましたが、これまたアオザイ姿のウェイトレスがにっこり笑ってくれました。クライアントが注文したスパゲティ・カルボナーラはどうみてもパスタではなくベトナム麺の「フォー」でした。
昼食も夕食もぶらぶら散歩しながら、興味のあるお店に入ってみるのが仕事の合間のハノイの楽しみ方として定着しつつあります。
河口容子
[177]バイラテラルからリージョナルへ
2005年12月 1日号「南の島へのあこがれBIMP-EAGA 」でも書いたようにASEAN 諸国には国境を越えたいくつかの経済圏がありますが、最も日本人がイメージしやすいのが GMS(Greater Mekong Subregion – 拡大メコン地域)です。先日、この地域への投資セミナーと工芸品を中心とする産品を集めたメコン展が開催されました。
GMSは1992年にカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム、そして中国雲南省の経済プログラムとして発足しました。その後2005年に中国の広西省壮族自治区が加盟しています。もともと戦禍の絶えなかったメコン川流域ですが、政治外交的な交渉は避け、経済社会利益の共有のみを目的とし、越境インフラの整備と物流に関わる制度や政策の合意をめざしたもので、貧困をなくし、地域の平和な安定と経済発展のためアジア開発銀行が事務局となり2012年までの中期プランがすでに策定されています。
この地域は 255万平方キロ(日本の 7倍)、人口は 3億人です。その背景には1980年代以降、東アジアでの企業内・完成品・部品垂直貿易の進展(特に家電、エレクトロニクス、自動車)、域内貿易比率の増大、生産ネットワークとサプライチェーンの形成(技術・デザイン・部品)があります。また、インド・中国・アセアンの物流と貿易の中心、中継点であることは言うまでもありません。まさに国際ビジネスもバイラテラル(二国間)からリージョナル(地域の)の時代へ入り、日本と中国や日本とベトナムといった二国間の視点ではなく地域という視点がこれからは必要です。
もともと私は会社員の頃から「輸出」や「輸入」という言葉が嫌いでした。日本を中心に商品が出るか入るかという単純な視点しか持たないからです。日本にとらわれずに旬の産地や旬の市場とビジネスをしたいというのも起業の理由のひとつでした。また、日本以外を「外国」とひとくくりにし、日本と日本以外の国という分け方をするのも独りよがりの考え方のような気がします。
ビジネスの国際化と言われて久しいものの、島国日本の多くの企業にとってはバイラテラルな進出が精一杯でリージョナルなビジネスを目指すのはまだ難しいと思います。また、ODAなどでこれらの地域に道路などを作っていますが、これらの建設、あるいは利用という形での恩恵をこうむるのは大手企業しかないでしょう。急速な国際化は日本企業の 2極分化を推し進める原因になっていると思うのは考えすぎでしょうか。
セミナーでは昨年お世話になったベトナムの貿易機関の副長官が 3列ほど斜め前の席に座っておられるのを発見、たまたまた振り返った副長官と目があい会釈をし小さく手を振るとあちらも笑顔で手を振って応えてくださいました。メコン展では同機関の日本担当官、ハノイで訪問した現地商社の女性マネージャーなど懐かしい顔が勢ぞろいしました。中国 1極集中を避ける「中国プラス1」で日本からの投資がベトナムでは急増したとも聞きます。 GMS諸国の中では日本からの投資はどうしてもタイとベトナムに集中せざるを得ないでしょうが、その他の国々とどうやってバランスのとれた関係を保つのかが今後の課題です。
河口容子