[359]中国投資家のフラストレーション

 香港の国際経営戦略コンサルタント会社のパートナーとしてお呼びがかかったのは2009年 4月 2日号「占い通りの新しい春到来」で書いた通りです。私の役目としては中国の中小企業(ないしは投資家)向けに日本からの技術、デザイン、ノウハウ面での支援です。リーマンショック以来、特に世界中が頼みにしている中国、しかも世界最大規模の市場にあって、さて、どんな案件が来るのかと興味しんしんの毎日でした。私たちのターゲットは借入も含め数千万円から数億円程度を投資できる企業や人ですので、ある程度の規模の事業構築が可能です。以下はここ数ケ月から私が感じたことです。
 投資家たちが最初興味を持ったのは「ブランドビジネス」でした。欧米や日本の高級ブランドのライセンス生産をしようというものです。いよいよコピー商品路線からの脱却かと喜んだものの、私は二つの不安がありました。お金を持てば天下を取ったような気分になる中国人(全員とは言いません。そういう傾向が強いと思ってください。)にブランド・イメージを守るためのいろいろな制約に従順に従えるのか、そして、流通関連の仕事をしようとする人は生産そのものに関してはあまり経験がない人が多いのでライセンス商品を作って送り出して行くノウハウがあるのか、です。私の不安は見事というか残念ながらというか的中しました。
 また、ある行政機関は先進国のブランドを一同に集めて中国側業者と商談会をやろうと言いだしました。アイデアとしては素晴らしく実現したらたいしたものです。ところが、世界に冠たるブランドが貿易見本市のごとくブースを並べて中国の業者と次から次へと商談をするわけはありません。人気のあるブランドの本社には取引を願う業者が世界中からコンタクトしてくるのです。中国人からしてみればお金を払う側が何でわざわざ頼みに行かねばならないのかまだ十分理解できていないようです。
 香港や中国では「欧米や日本とコネがある」というだけで多くの引合いが寄せられます。その意味で上述の会社や香港のビジネスパートナーにとって私はビジネス・チャンスのきっかけを作る意味では貢献しているような気がします。ところがやはり日本の産業構造や流通のしくみを理解できていないことが多いのも事実で2009年 7月30日号「香港トレーダー」で書いた粉ミルクや化粧品のような話が実に多いです。
中国は人脈社会ですので知人友人のネットワークを広げてビジネスを展開するケースが多いのですが、情報収集力がその人脈だけに限られてしまい、いわゆる経済ニュースなどをよく見聞きしていない事も気にかかります。彼らが一生懸命に考え、小規模からぼつぼつ始めようと思ったところで、日本をはじめとする先進国が中国本土ですでに大仕掛けのビジネスを展開しているケースもよくあります。私は毎日人民日報の日本語版をインターネットで読んでいますが、ビジネスを立ち上げるのだったら、そのくらいは常識なのに、と思う事しばしばです。
先進国諸国が経験や知識を駆使して中国市場をものにしようとしのぎを削っている中、中国企業は厳しい競争を強いられます。これはどの途上国にも言えますが、外資は利益が取れなくなれば撤退してしまうリスクがあります。中国の持続的な発展のためにも中国企業の育成が強く求められている気がします。
河口容子
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[351]香港トレーダー

「トレーダー」というと最近は金融関係者に使われることが多いように思われますが、長く貿易の世界に住む者にとって「香港トレーダー(貿易人)」は国際人としての憧れも含めた懐かしい響きを持っています。
とはいえ香港トレーダーの基本は「担ぎ屋さん」。たとえば日本へ来る時はブランドもののバッグを持って来て日本で売り、出張旅費を捻出、帰りは香港や中国本土で売れるものを買って帰りまた儲けるというスタイルです。中小企業経営者で中流以上の生活をしていてもこんな事をいまだにやっている人も多い。商機あらば労力は惜しまず、という感じです。さすがに私の香港パートナーたちは富裕層ですのでそこまではしませんが、日本へ来るのにディスカウント・チケットを必死に探し、良いホテルをいかに安く予約するかにも神経を使い、当然私も時にはお手伝いするのですがどれだけ安くなったか自慢ひとしきり。とここまではかなりケチくさいですが、ビジネス・ギフトは豪勢にというのが中国流ですので、お土産やご馳走して下さる場合は大盤振る舞いで、これぞ効果的なお金の使い方と変に納得してしまいます。
また、少しお金と地位があれば、人脈を利用してサイド・ビジネス的にトレーダー業に手を染めたがるのも香港人の特徴かも知れません。日本人のように専門分野を決めて戦略的にビジネスをするのではなく、売れそうと思えば商品は何でも扱います。要は売買差益が出れば何でも良いのです。香港のビジネスパートナー向けには婦人服、紳士服、婦人靴、雑貨、食器などの扱いを経て、今は日本酒、先日は業務用の冷凍庫まで輸出しました。ここ 6-7年で仕入れ先は50社以上にのぼると思います。計画性はゼロ。商品に思い入れがあり、頑張って時間をかけて売ってみようという気もゼロ。彼らにとって株で儲けるのか、不動産で儲けるのか、ビジネスで儲けるのかという投資の選択肢のひとつなのでしょう。
香港や中国本土ではいまだに日本製粉ミルクの需要が大きいらしく、2008年11月27日号「粉ミルクと幻の酒」で触れたように日本産業構造の問題や市場性の問題もあるので日本で中国向けに増産するのは難しい、日本から技術を学んで中国の企業が安全な粉ミルクを作るべきだと言うと「ふん」とばかりに話が途切れてしまいます。本職は学者である香港パートナーがそういう議論にまったく興味を持たないのは不思議です。日本の総合商社なら「なければ作れ」とばかりにメーカーに投資をし、技術導入までやります。そもそも私は売買の繰り返しには関心がなく、時間がかかってもものづくり、仕組みづくりのほうが自分の工夫や粘りを生かせるので残念に思う瞬間です。
こんな論議もありました。「日本のブランド化粧品を輸入したい。」とパートナー。「そのブランドは中国でも生産されていますし、同じ商品なら製造方法も同じはずです。」と私。「そんな事は百も承知だが、皆日本製をほしがるのだよ。」売り先は輸入化粧品専門店と思い少量多品種をそろえている問屋を探したところ、1商品最低 1,000個はいるね。大手小売チェーンだから。」「そんな大量なら正規代理店から買うのが筋ではないでしょうか。」「正規代理店から買うといろいろ規制があるから嫌だと言っている。必要なものを必要なだけ買いたいし、価格も自由につけたいから。どうして売れるのに日本のメーカーは売らない?工場から直接買えないの?」「工場は本社の許可がなければ製品を製造もしませんし、売りもしませんよ。」
ここではたと気づいたのは、日本はメーカー側の観点から製品が動いていることです。特にバブルの崩壊以降は生産調整、在庫調整がきびしくなっています。成熟化した市場では商品が不足気味のほうが存在感があったりもします。一方、香港、中国は消費者中心に製品が動くのでしょう。ものがなかっただけに購買意欲に勢いを感じます。その欲を満たすために偽物が続出するのも自然の摂理なのかも知れません。

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河口容子