[343]リスク・テイカーのマナー

4月に香港の国際経営戦略コンサルタント会社のパートナー(非常勤役員みたいなものです)となってから、既存の香港パートナーのルートと並行してどんどん仕事も増え、国内外の人脈もネズミ産式に増えています。先週号で触れたようにフランス在住の日本人コンサルタント N氏に応援を得て、一気に私の世界はEUや中東、アフリカまで広がっていきそうな勢いです。
 「今の中国では頭が良く、少しのお金とちょっとの勇気、そして勤勉であればどんどん事業に成功して出世していきます。日本では世襲議員のように利権にしがみついているような人が多く、頭が良くてもお金の稼げない人もいれば、お金はしこたま持っていても品性も卑しいお馬鹿さんも多い。日本に比べるとまっとうですがすがしさを感じます。」と N氏に言ったところ、「日本も70年代まではそういう前向きなリスク・テイカーがいたんだと思います。皆が宝探しに邁進する、それが高度成長のエネルギーじゃないでしょうか。最近、ビジネスを仕掛けたブラジルやアルゼンチンでも同じエネルギーを感じます。」
 今の日本は高度成長期に成功した人の孫子の時代に入っており、政界のみならず経済界から芸能人に至るまで2世とか3世が現れてくるのも致し方ないのかも知れません。私に言わせればサラリーマンというのも所属する組織の名前や商権、他人の出した資本に依存しているわけで立派な利権にしがみついた職業です。
 私が香港、中国のビジネスマンたちに対し尊敬する点は「失敗しても他人のせいにしない、愚痴を言わない」ところです。香港女性と結婚している日本人から聞いた話ですが、奥さんの親戚に大金持ちがいたそうです。ところがある日突然事業に失敗し無一文になりました。「何と慰めて良いものやら」と励ましにご夫婦でこの元大金持ちを訪問すると、バスの運転手になっており、以前よりも喜々として暮らしていたそうです。こういう潔さと前向きな明るさが私は好きです。これがリスク・テーカーのマナーだと思います。
 会社員の頃、九州に取引先がありました。年に 2-3回しかお伺いしないにも拘らず、社長にお会いすると開口一番仕事のこと、社員のことなど愚痴ばかりです。「私に愚痴を言ったところで何の解決をしてあげられない。そんなに嫌なら仕事を辞めればいいのに、あなたは辞める権限を持っているではないか」と内心いつも不愉快でした。非常に業績が悪いという噂にも拘らず高級車を乗り回し、実態のないような子会社まで持っています。私としては支援の意味もあり、できるだけ売上を作って差し上げたつもりですが、感謝されるどころかあまりにも理不尽な対応が続き、とうとう私の一存で取引を停止しました。その 2-3年後、この会社は倒産し社長は自殺をされたと風の便りに聞きました。この社長に香港人の潔さと前向きな明るさがあったらそんな悲劇は起こらなかっただろうと時々思いだします。
私自身は追い詰められるほど冷静になり、普段は思いもつかない知恵のわくタイプです。だいたい悩みとは無縁で、10年ほど前に目の病気で医師に「休日に異常があったら救急車ですぐ病院に行ってください。失明するかも知れませんから。」と言われ、失明したら点字を覚えよう、今まで知らなかった世界が開けるかもしれないととっさに思いました。腰痛で「歩けなくなったらどうするんです?」と内科の医師に脅され、整形外科に行った時は、ドイツ製の車椅子のカタログから自分の好きなデザインをちゃっかり選んでいました。こんな性格が香港のリスク・テイカーたちと波長が合う理由のひとつだと思います。
河口容子
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先週号で中国の小規模投資家はライセンス・ビジネスやフランチャイズ・ビジネスに関心があると書きましたが、理由は簡単です。たとえば今後上場しそうな中国の中小企業に投資したところで同族経営の中でもみくちゃにされるだけ、また上場までにいろいろ改善しなければならない点があまりにも多いからです。一方、先進国からのブランド・ネームやノウハウを借りてビジネスをすれば自由に手っ取り早くビジネスになるからです。彼らにとってビジネスとは日本人が株式や投信を買って運用するのと同じ感覚です。一定の仕事に対するこだわりや社会貢献というような高邁な精神ではなく、空気を読んで判断し、投資をし、利益を得る、それだけの事です。ですからタイミングが重要です。
 先進国でライセンサーやフランチャイザーを探さなくてはいけない私は、この話を聞いた時、日本企業はまず無理と判断し、2008年 1月31日号「パリの日本人」に登場する在仏日本人コンサルタント N氏に応援を依頼しました。案の定、資金負担がないとあってフランスをはじめヨーロッパ企業がリストを作成しなければならないほど名乗りをあげてきました。 N氏も「日本は景気が悪い、悪い、と報道されるので欧州企業は誰も見向きもしてくれないだけに中国の話をいただけて本当にうれしい。」と大張りきりです。
 実は先日アセアン諸国関係者のカクテル・パーティがあり、「大袈裟な不況報道のおかげでアセアン諸国も日本に関心を持たなくなることが不安」という国際機関の管理職のご意見もありました。実は私の周辺では失業者などどこにも見当たらず、近隣のちょっと高めのレストランや美容室はいつも満員、逆に安かろう悪かろうのお店は撤退して行きます。私の日本のクライアントは未曽有の売上と利益を更新しています。おそらく業界や地域により明暗がくっきり分かれているのではないかと思います。
 なぜ上述のように日本企業はだめとさっさと判断したかと言うと、ボトム・アップによる決裁スピードの遅さ、サラリーマン根性による自己保全、排他性と職人気質によるフレキシビリティのなさが新規事業への積極性をはばむからです。また、中国にはすでに製品を輸出していたり、アンテナ・ショップを出していたりするため、急に方向転換ができない、ということもあります。タイミングを逸する条件がこれだけ揃えばアプローチをする気も失せてしまいます。
 一方、トップダウンの小型企業やベンチャー企業には有利な時代になったと言えます。大手企業に比べ月給が高いとは思えませんが、社員一人一人が懸命に夜中まで「自分の会社」のように仕事をしている姿は非常にすがすがしく目に映ります。
 フランスの N氏は「世界的不況でフランスでは起業する人が増えた」と言います。「雇用条件が悪くなっているから、自分でやるしかないと思い始めた」のだそうです。「日本はサラリーマン至上主義で子どもの頃から独立せよという教育を誰もしませんからね。なかなかフランスのようにはいかないでしょう。」と私。ベトナム人の知人が「ベトナムは社会主義です。日本は会社主義です。」と見事な日本語で私を笑わせてくれたことがありますが、会社に依存できなくなった今、日本は何主義になるのでしょうか。
河口容子
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