最近、会社経営者の知人が香港に久しぶりに出張しました。返還前の香港を知り尽くしている彼としては「さびれましたね。欧米人も日本人も減ったし、街には活気がないし。中国本土からの観光客は増えたみたいですけど。」というのが帰国後の第一印象です。確かに返還されても一国二制度の確約は守られ、行政的には香港は独立国とほとんど変わりません。ところが、返還を機に台頭著しい、そしてコストの安い本土へ拠点を移す外国企業が急増したのです。日本人駐在員も 1万人以上減ったといいます。外国人駐在員とその家族、そして観光客が減るだけで香港の観光業、不動産業、小売業にはかなりの打撃であったようです。
さて、10月30日には都内のホテルで「香港華南シンポジウム CEPA (経済貿易緊密化協定) がもたらす事業機会」というセミナーが行われました。香港からのミッション・リーダーは香港行政区ヘンリー・タン財務長官です。CEPAというのはClose Economic Partnership Arrangementの略で来年 1月 1日から試行される香港と中国本土間の自由貿易協定のことです。製品貿易については「香港製」と認定される製品 273品目につき中国に輸出する際「ゼロ関税」が適応されます。サービス貿易については18分野の香港を拠点とするサービス産業の中国における市場開放が行われます。貿易および投資手続きの簡素化が行われます。
[056]起き出した獅子
総合商社では中国がバリバリの社会主義国家だった頃から取引を行っているたくさんのスペシャリスト集団がいます。私は中国語もできませんし、英語の通じる香港以外は取引経験がなく、「中国は素人」で通してきました。一生無縁な所だと思っていたところ、独立してから香港のビジネスパートナーのおかげで中国ビジネスに足を突っ込むようになりました。仕事で出会うのは人ばかりでなく、商品であったり事柄であったりもするのですが、それは何かのご縁と思い、その都度興味しんしんなのが私の性格です。
先週は中国関係でたくさんニュースがありました。まず13日に中国政府が輸出に伴う増置税 17%の還付を引き下げるという発表をしました。増置税というのは売上税のようなもので輸出売上については全額還付されていました。ちなみに日本でも輸出取引については消費税は課税されません。この引き下げにより、輸出を制限したい品目は還付制度廃止、促進したい農産物などは現状維持、私たちになじみの深い電機製品やアパレルは 13%の還付となります。もともと財源不足から還付が遅れがちと聞きましたから、今回の措置は増税というより現実的な形への調整とも言えます。中国の輸出業者にとっては痛手です。おそらく輸出価格の値上げにつながるのでしょうが、世界中へのデフレの輸出が緩和されるとも思えますし、安い中国での生産価格だけを頼りにビジネスを繋いでいるような日本の中小企業、特にブローカー的存在の企業には死活問題になるかも知れません。