[056]起き出した獅子

 総合商社では中国がバリバリの社会主義国家だった頃から取引を行っているたくさんのスペシャリスト集団がいます。私は中国語もできませんし、英語の通じる香港以外は取引経験がなく、「中国は素人」で通してきました。一生無縁な所だと思っていたところ、独立してから香港のビジネスパートナーのおかげで中国ビジネスに足を突っ込むようになりました。仕事で出会うのは人ばかりでなく、商品であったり事柄であったりもするのですが、それは何かのご縁と思い、その都度興味しんしんなのが私の性格です。
 先週は中国関係でたくさんニュースがありました。まず13日に中国政府が輸出に伴う増置税 17%の還付を引き下げるという発表をしました。増置税というのは売上税のようなもので輸出売上については全額還付されていました。ちなみに日本でも輸出取引については消費税は課税されません。この引き下げにより、輸出を制限したい品目は還付制度廃止、促進したい農産物などは現状維持、私たちになじみの深い電機製品やアパレルは 13%の還付となります。もともと財源不足から還付が遅れがちと聞きましたから、今回の措置は増税というより現実的な形への調整とも言えます。中国の輸出業者にとっては痛手です。おそらく輸出価格の値上げにつながるのでしょうが、世界中へのデフレの輸出が緩和されるとも思えますし、安い中国での生産価格だけを頼りにビジネスを繋いでいるような日本の中小企業、特にブローカー的存在の企業には死活問題になるかも知れません。


 一方、中国は有人宇宙船の打ち上げに成功しました。なるほど、こういう所に税金が使われているのかと納得すると同時に、知らない間に科学技術力が進歩し、また軍事的な威力も感じました。「神舟」というその名に社会主義国が「神」という宗教を持ち出すことにも新鮮さを感じました。
 16日に出てきたのが、中国のお金持ちリストトップ100です。13億人の頂点は32歳のITの天才。彼らのほとんどはIT企業オーナー、不動産業、投資家で、平均すると44歳強だそうです。中国は経済の自由化とともにビジネスの中核となる層が若返りした事を如実にあらわしています。中国では高額品を売るのに、商品知識のない高齢者を狙うなどという手法は一切通用しません。
 これに追い討ちをかけて17日には1-9月の国内総生産GDPの伸びは 1-9月で8.5%増、SARS明けした 7-9月は9.1%という今の日本から見れば目を見張るような数字です。しかし、社会主義のお国柄、計画経済が可能で公共投資で数字を調整するとも聞いています。また、通貨の人民元はドルリンクであり日本円のように外為市場により価値が変わらないというのも強みです。ところが失業率も改善されたとはいえ、しっかり4.2%。13億人の中の格差はどんどん開いていきそうです。
 北京オリンピックの後には上海の万博と国際社会への文化的なデビューも控えた中国ですが、一方、寒さに向かいSARSの再発も懸念されています。長らく「眠れる獅子」と呼ばれた中国ですが、起き出した獅子の行方に今後も目が離せそうにもありません。
河口容子