[057]30億人自由貿易市場への道

 10月13日の週にあまりにも中国関連のニュースが多かったので前回は中国がテーマとなってしまいました。今回は順序はちょっと逆になるもののその前の週にバリ島で開かれた ASEAN(東南アジア諸国連合10ケ国)プラス3(中国、日本、韓国)のサミット、そして ASEANとインドのサミットが開かれた話題を取り上げます。
 ここでの最大のテーマは自由貿易協定(FTA) です。まず ASEAN域内では2020年までにモノ、サービス、投資、資本などの域内移動を自由化する経済共同体をめざします。先発加盟 6ケ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ)ではすでに関税の引き下げが行われています。 ASEAN全体では 5億人の人口となりますが、民族、言語、宗教、文化とすべて多彩、国の大きさや経済基盤も格差があります。ひとりあたりGDPはなんと 100倍の差がありますが、ASEANの平均の 80%が中国の平均です。中国の目覚しい経済成長がASEAN統合に拍車をかけているのが現実です。


 日本は ASEANとの経済的なかかわりあいは戦時賠償からスタートし、天然資源の輸入、安い人件費を利用しての製造基地、そして域内での販売と投資金額も中国よりはるかに多い地域で非常に友好的な関係にあります。ところが中国が WTOに加盟したとたん ASEANと FTA交渉をスタートさせ、実現目標は2010年です。日本は農産物の開放という大問題を含むため遅れを取り、実現目標は2012年です。ところが日中に出遅れたアジアのもうひとつの大国インドが猛烈に巻き返し2011年に実現目標を割り込ませたのです。韓国もASEAN と専門家レベルでの研究をスタートさせます。何とこのメンバー間で FTAがすべて成立すれば未曾有の30億人自由貿易圏が出現することになります。
 今回の結果を見て私なりにいくつか感じたことがあります。まずは、これだけの大国、先進国を引き寄せる ASEANの魅力。歴史的にも文化的にもASEAN はインドと中国の影響を多く受けています。そして第二次世界大戦をはさんで日本とも関係の深い地です。また議長という大役を果たしたインドネシアのメガワティ大統領。彼女は当選した頃は「人気はあるが政治家としては素人の主婦」とまで言われていました。今後、北朝鮮はますます孤立化するのか、台湾はどうなるのか、という疑問も残ります。
 最後の最大のテーマは日本はどんな国家として生きていくか、ということです。もはや鎖国はできません。私自身が見聞きしている日本の空洞化の実態については違う回に譲らせていただきますが、産業構造のグランドデザインやそれにあわせた成人も含めての教育のあり方や制度が問われることになるでしょう。もうその場しのぎの対策だけでは、あっという間に何の取り柄もない東のはずれの島国になる危険性もはらんでいるからです。
河口容子