先週お伝えしたギフトショーへ行った翌日は銀座でベトナム・グッズの商談会がありました。1ケ月間行なわれた展示会の締めくくりが日本の輸入者と出展業者との商談会です。来場者の中に先月の私のセミナーを受講された方がたのお顔があり、ご挨拶をくださり大変うれしく思いました。この日はシンガポール政府関連のミーティングが別のフロアであり、終了後、一緒に出席した知人たちも商談会にご案内しました。
グッドタイミングだったのは、2003年 8月21日号「輸入から起業へ」で取り上げたセミナーの受講生の男性です。当時、セミナーのフォロー用に作ったメーリングリストを利用して、あるベトナム製品を買い付けたいが情報はないか、との問いかけがあったのです。私はすかさず、この展示会に偶然その商品が出ており、また商談会があることを伝え、私も現場にいるので時間があればご覧になってはどうですか、もし気に入らなければ別の業者を紹介するように大使館にお願いをしますから、と返事をしました。
この日、彼はやって来て、中年女性のオーナーと商談を始めました。彼のオーダー通りの商品は作ってもらえそうですし、数量も何とか調整がついたようです。あとは価格をもうひと押し。
その晩、彼からお礼のメールが届き、商談の続きは翌日ギフトショーへの商談に持ち越されことになったとの報告を受けました。私からのアドバイスとしては、日本人は目先のことばかり細かく要求するので、相手がどんな取引をしたいのか全体像が見えず条件面で損をすることがあること。相手の立場に立って相手の安定した利益につながるような取引条件を提示すれば単価は下がるはず、とアドバイスをしました。
また、翌日メールをもらい、ほとんどすべて要求はのんでもらい、独占販売契約も締結でき、その代わり違う商品も取り扱ってみることにしたので近々ホーチミンへ行くとのことでした。彼のメールの中で一番うれしかったのはオーナーとお嬢さんのお人柄が素晴らしく、良いつきあいをしていけそうというくだりでした。元公務員の彼も今ではすっかり交渉の達人ではありませんか。
個人事業者や小企業では黙っていても仕事は来ません。まずはアクションです。絶妙なタイミングのメールから商談の成果が上がりました。他人のアドバイスを受け入れ修正ができ、契約に持ち込むまでのスピードも大企業にはまねができない技です。先週号でも触れた刺繍の女性と言い、昨日まで想像もしていなかった海外の相手とひとりでビジネスをスタートするこの運命的な出会いをお手伝いでき、夢の実現への第一歩を見守れるのは私としても実に感動的な瞬間です。また、このビジネスを通じて途上国の発展にささやかながらも貢献できることを思うと私自身も天職を得た感謝でいっぱいになります。
河口容子
[202]またもや運命の出会い
ひとりで起業をすると、つくづく不思議に思うのは取引先との出会いの不思議さです。私の場合は、商品も商権もゼロでスタートしましたので、特に海外のビジネス・パートナーや取引先との出会いはこの広い地球でめぐりあう、そしてビジネスを始める不思議さ、ご縁というものを本当に強く感じます。現在、香港とシンガポールにビジネス・パートナーがおりますが、私自身が望んだ事も、想像すらしなかった事です。香港のほうは2002年12月27日号「運命の力、お金の力」で、シンガポールのほうは2006年 1月12日号「簡単そうで難しい仕事」でそれぞれ経緯について触れておりますので、ご興味があればご覧ください。
その他、アセアン諸国に関しては国際機関のお仕事をいただいてから、各国の貿易促進機関に知人ができるようになりました。昨年はベトナムの貿易促進機関からセミナー講師にも指名していただき、これが現地で大々的に報道されたことから、日本でもベトナム製品に関する講演を 8月上旬に行なったばかりです。また、シンガポール国際企業庁からのプロジェクトもスタートしています。 JETRO(日本貿易振興機構)も含め、政府機関のお仕事が多いというのも起業当初は考えてもみなかったことでした。
今年から日本のクライアントのためにベトナムでのOEM生産のお手伝いを始めました。この日本のクライアントも不思議なご縁に満ち満ちています。上述国際機関の仕事仲間の女性が社長を紹介してくださったのがきっかけですが、なんと会長は私が会社員だった頃の取引先に勤務されていた方(もちろん当時はお互いに面識もなく、またこのクライアントの会社と会長の勤務されていた会社は会社はまったく接点がありません)であることを知りびっくり、また専務は私の祖父の代からおつきあいを続けているお宅の姻戚であることが判明、と不思議なことづくめでした。
さて、ベトナムの人件費が安いことはよく知られていますが、裾野産業が未発達で工業製品の場合は素材の調達を輸入に頼らざるを得ません。そこで輸出入に慣れており、自社工場も持っているベトナムの商社に見積をお願いしたところ、中国製の 1.5倍から 2倍という価格になってしまいました。日本から見てベトナムは中国に比べると輸送距離が長く、輸送コストも日数もかかります。この商社の社長も新たに専用ラインを作るために投資をしてくれるとやる気まんまんでしたがこの価格ではどうしようもありません。
クライアントの目的は生産基地が中国に集中しているリスクを分散しようというものです。納得できる価格でベトナムで作る方法はないか考えました。そこで思いついたのが、韓国、香港、台湾あたりのメーカーでベトナムで操業しているところはどうかという発想です。おそらく大量生産をするからベトナムに工場を作り、素材のルートもちゃんと持っているはず、という考えです。そこで一緒に製造してもらえば当然価格もかなり安くなります。
ある日、香港の貿易促進機関のスタッフからメールが来ました。まったく別件の話です。これは神の啓示かも知れないと思い、この業種の香港企業でベトナムに工場を持っている企業を探すにはどうしたら良いか聞いてみました。ちょっと面倒かも知れないけれどできなくはない、とそのスタッフは答え、例えばたまたま今開いているリストに○○という韓国系の企業がある、というのです。その企業は香港に法人を持っているためリストに出ているらしく、アルファベットのAから始まる社名なので彼女の目にとまったようです。
私は早速その会社にコンタクトしてみました。何と礼儀正しく、素早い回答。サンプルの送付や見積もきちんと約束の期日までに出てきます。「ジャパン・アズ・NO1」と言われた頃の日本企業のようです。しかもこの韓国企業は中国にも工場を持っており、同じオペレーション下での比較ができますし、何といっても日本向けの実績も相当なものです。またもや、運命の力がぐんぐん私を引っ張っているのを感じました。来月にはクライアントと一緒に中国とベトナム両方の工場を訪問しますが、昨年よりなんの目的もなく道楽で始めた韓国語の勉強はこの出会いを暗示していたのかも知れません。ただし、相手は英語が堪能、日本語も話せるようですので、私の韓国語は余興で済みそうです。
河口容子