[376]国際化とITリテラシー

実は私のPC歴は長く、1980年代前半でPCが 1台 100万円くらいした時代にさかのぼります。典型的男社会の総合商社では女性が男性と同じように認められるには男性の 3-5倍働かないと無理と言われていた中で、何か差別化をと上司がパソコンを学ぶようにとすすめてくれました。その頃は BASICのコマンドを打ち込んでいかない限り簡単な計算すらできず、短気でじっと座っているのが苦手な私にはこれは無理と数ケ月であきらめました。それでも当時の表計算ソフトで描いたグラフを社内用統計資料に初めて利用、ちゃっかり名前を売ったのを覚えています。

WINDOWS 95が出た時は「これなら簡単」と自宅にデスクトップPCを買いました。それ以降会社員の頃からノートPCと常に 2台持っています。会社員を辞めたのは2000年の 4月ですが、常に会社のPCよりも自宅のほうが最新のOSやアプリケーション・ソフトを備えていたので、このPCが会社にあったらいいのに、としだいに思うようになりました。メールがあれば海外でもタダ同然でコミュニケーションができます。そのうちインターネットのコンテンツもどんどん充実してきたので、図書館へ行き情報を収集する時間や交通費もいらなくなるどころか海外の情報もいながらにして検索できます。これなら一人でも国際ビジネスができると確信するようになりました。

ITリテラシーという言葉が最近使われますが、このITを使いこなす能力は日本の一般ビジネスマンは途上国と比べてもかなり低いと感じています。いまだに原稿を作ってからPCを打っている人がいますが、それではPCはタイプライターに過ぎません。電卓で計算をしながら EXCELに入力している人にいたっては何をかいわんや、です。

特に海外のコンサルタント会社やシンクタンクと仕事をする時はまずは「PC環境」のチェックがあり、必要なアプリケーションを持っていないと仕事ができないのが普通です。このおかげで私のオフィスの電脳化はどんどん進みました。データを送ると「そのアプリケーションはない」「バージョン・ダウンして再送してほしい」と言われるのは日本企業ばかりです。会社にいながらメールをチェックする習慣がない人もいます。それなら名刺にメールアドレスを印刷するのを止めてはどうか、と思わず言いたくなります。

たとえばMS OFFICE は今2010のベータ版が出ています。主流は2007で、その前は2003です。PCの減価償却期間は 4年ですのでほとんど2007になっていて不思議ではありません。私の会社は10数ケ国とコミュニケーションがありますが、そのうち先進国はフランスとニュージーランドのみです。中国だろうとベトナムだろうと国際ビジネスをしている会社は2007が使え、また会社案内など見事なデザインのPOWER POINT を送って来ます。

別に最新のものをそろえる必要はありませんが、PCを使って仕事をしている以上、「好き嫌い」や「もったいない」とは関係なく取引先などの普及率をチェックしてそろえていかざるを得ないでしょう。でなければ「鎖国」状態になります。「日本人は英語が話せる人が少ないからなあ。」と途上国の人にもせせら笑われて久しいですが、そのうち「日本人はPCがちゃんと使えないからなあ。」と言われるのではないかと危惧する昨今です。

河口容子

[372]情報の閉鎖性

海外顧客からの依頼で日本市場調査の一環として日本企業にアンケート調査を行う事がたまにあります。経営方針に関する事柄ですのでほとんど回答がない事をわかりつつやらざるを得ない非常に面白くない仕事のひとつです。

なぜ回答がないのか?ある一定の規模の企業なら経営陣が自らアンケート用紙に記入する事はまずないでしょう。そもそも会社組織に他社からのアンケートに答えるための部署などはありませんし、社員がうかつに答えて後々責任問題になるのは嫌だから「触らぬ神にたたりなし」で、さも受け取らなかったかのような顔をするというのが日本式なのでしょう。こういう時、外国人は「アンケート用紙が届いていないのではないか」「担当者が記入し忘れているのではないか」などと真面目に騒ぎますが、「返事をしないのも回答のうち」と私は答えることにしています。

最近の日本企業は消費者からの質問やクレームに応じる窓口はありますが、こうした企業対企業の対応窓口はゼロです。総務部や広報室などに問い合わせても「当社ではご協力できません。」という返事が返って来るのが普通です。仕方ないから役員クラスの知人に窓口を紹介してもらえぬかと電話をすると今度は「社内規程により教えられない」という返事が来ました。圧巻はある百貨店で「購買に関する問い合わせや一方的なカタログの送付はお断りします。」と堂々と文書にしています。確かに山のように問い合わせや廃棄に困るほどカタログが送りつけられ、中にはいかがわしい業者も混ざっている事とは思いますが、積極的に商材を探すという本来業務を封じてまでリスク対策をしなければならないなら売上げは落ちるに決まっています。

海外のリサーチャーたちに聞いてみると、電話でも面談でも快く応じてくれるケースが多いと言います。それもトップ・マネジメント自らが面識のないリサーチャーと会ってくれるそうです。興味があれば会う、都合が悪い事は言わなければ良い、会って話をするには契約をしたのとは違い何の権利も義務も生じないから情報を得るだけ得ではないか、というのがその理由だそうです。

24歳の頃、役員の秘書をしていた事があります。その上司(役員)に「情報を収集するにはまず自分も情報を提供しなさい。そうでなければ相手は話してくれない。ただし機密は絶対しゃべらない事。」と教わりました。また、ある知人は「ビジネスでは究極のところ YesかNoあるいはいついつまで待って、という返事しかない。どんな会社でも 1割くらいの機密はあるでしょうが残りの 9割は正直に話したらいい、嘘をつけばどんどん嘘をつかざるを得なくなり、そのうち収拾がつかなくなる」と言いました。本当にその通りだと思います。

たとえば、ありとあらゆる理由をつけて回答を先延ばしにし、あげくの果てには居留守を使うという例をたくさん見てきましたが、なぜ最初から断らないのでしょうか。お互いに時間が無駄だし、気分も悪いと思うのですが。私は相手がもったいをつけて答えなかったり、嘘をついたりしても、誰からか聞きもしないのに教えてもらえるという不思議な運を持っています。また、普通他人には話さないだろうと思うような事柄を打ち明けられることもありますが、それは信用していただいた証としてどんなに重たくてもありがたく黙って受け止めることにしています。

河口容子