5年ほど前、まだ会社員の頃、ある米国ブランド商品の輸入オーダー・マネージメント・システム構築の責任者をおおせつかった事があります。私自身はSEではありませんので、システム全体の構想を練り、詳細なスケジュール作りと進捗状況のチェック、実務上不具合がないかテストを行い、ユーザー(自分の部下)に教育を行い、社内の関連部署やデータ伝送を行なう取引先3社との調整、専任で張り付いてくれているSEさん7人の管理です。コストと開発時間の短縮のため米国法人で使用しているシステムを改良して使うようにという上司の方針で、英語だけで動くシステム、しかもSEのリーダーはニューヨークのシステム部所属という珍しい仕事となりました。
この仕事を通じて、システムとは経営哲学であり思想であることを思い知らされました。まずこの米国式システムでは処理のステップごとに入力担当者が登録され、それ以外の人は勝手に入力ができません。前工程の人のうっかりミスを後工程の人が親切に訂正してあげることはあり得ないのです。後工程の人は前工程の人に訂正を依頼し、それが終わらないと後工程の人は仕事がストップするしくみになっています。
重要なデータの変更は担当者も一度確定させたら変更はできません。やむをえない場合は、管理者が判断を行なった上パスワードを打ってあげれば変更が可能なようになっています。もちろん、誰がいつ何をしたかの記録はすべて残り、管理者である私のパソコンからは一目瞭然です。おまけに毎朝担当者ごとの前日の処理結果がアウトプットされ、私はひとりひとりから報告を聞くまでもなく誰のところでどんな業務が停滞しているか把握することが可能です。
[098]チームプレイ
サッカーのアジアカップでの優勝は、激しいブーイング、異常な暑さ、遠距離移動、延長戦と悪条件をひとつひとつクリアしてきた結果だけに良い夏の思い出となりました。選手個々の良さを生かしながら、最終的にはチームプレイの勝利であったと思います。正直なところ、日本選手は強くは見えません。その代わり、団結心、粘り強さ、セットプレーでの精度などはすばらしいものがあります。また、マナーを欠く中国人サポーターの挑発にはのらず、日本人サポーターはブルーに PEACEの文字をプリントした Tシャツを着ている人や日中友好の垂れ幕を持っている人を見かけ、大人の国として誇りすら覚えました。
ビジネスの世界もこれと同じで、やはり日本人の長所はマナーの良さやチームプレーの巧さにあると思います。ある時、私の香港人パートナーの兄のほうが言いました。「日本の組織はどうして放っておいてもちゃんと仕事ができるのだろう。」「日本の大企業では組織対組織の対立もあったり、決して仲よくやっているわけではないのですよ。」と私。「それでも結果として仕事はするでしょう?中国ではあり得ない。」確かに中国は米国と同様トップダウンの経営法ですし、中小企業の多い香港ではオーナーが何でも自分で仕切ります。もともと転職社会であり、会社に忠誠心がある優秀な中間管理職(現場の長)を得にくいということもあるのでしょう。
おまけにパートナーの弟のほうは英国とシンガポールでも開業資格を持つ弁護士ですが、国際人を自負する彼ですら「日本は信頼関係の上にビジネスが成り立っている。すばらしいことだ。どうしてそうできるのだろう。」という有様です。中国人は基本的には個人主義できわめてドライです。香港人たちを見ていると利益になればすぐくっつき、利益にならなければ音沙汰もない。それで終わりではなく、利益になると知ればご無沙汰も詫びずどこからか現れるところがけっさくです。日本人のように「前回嫌な思いをしたから二度と会いたくない」などというセンチメンタルな発想は一切ありません。彼らにとってビジネスは勝つか負けるかのゲームのようなものかも知れません。