[327]日本人の価値観

 日本では1月上中旬の貿易統計が発表されましたが、輸出は前年比50%近いダウン、輸入も25%以上の落ち込みを見せ、何と貿易収支は一兆円を越す赤字。月間レベルでも貿易赤字の見込みで、12月まででも 3ケ月連続赤字です。輸出の押し下げに寄与したのは、自動車、半導体等電子部品、自動車部品など、輸入の押し下げに寄与したのは、原粗油、半導体等電子部品、石油製品など、とのことです。もちろん円高、米国のリーマン・ショック以降世界同時不況ということが主たる原因でしょうが、本当にそれだけなのでしょうか。
  4年前にハノイにある5つ星日系ホテルに泊まった時のことです。ハノイにある日系ホテルはここしかありませんので日本の首相を始め、財界 VIPのお客様も多い所です。ところが室内のテレビは実にあっけらかんと韓国製でした。日本を代表するハノイ唯一のホテルとしての体面を考える余地がないほど、韓国製は安くて性能が良いのだろうと感じた瞬間でもありました。
 そもそもテレビが貴重品であった時代なら所有する事がステータスであったかも知れませんが、今のように普及してしまえば値高い超大型テレビを持っていたところで大した自慢にもなりません。同じように車やその他家電、パソコンなどについてもむしろ自分のライフスタイルや使用目的にあったもの、値ごろ感が重要視されています。一定期間の間にはどうせ買い換えてしまう消耗品でもあるからです。メーカーも「日本製品は値段が高くても、品質が良い、付加価値が高い」という神話から早く脱却して、価格と内容のバランスの取れたものを作っていかないと海外市場はもとより日本市場からも相手にされなくなる可能性があります。
 中国の富裕層は、ブランド品を買いあさるのはマニアかまあまあのお金持ち、と言います。富裕層ならブランド品はいただくもの、あるいは特権を利用して割安で買えるものだからです。高級レストランにしても「招待されてタダメシ」であったことを自慢します。もちろん招待してくれたのが大物であればあるほど自慢です。また、ブランド品を持っていなくても「買えない」とは誰も思わないので見栄のためにブランド品を買って武装する必要がなく、ますますお金持ちになります。
 これは日本の伝統的なお金持ちにもまったく同じことが言え、堅実であることを家訓としている家も多いようです。一部派手な生活をしている日本の富裕層は一代成金が多く、それを大げさに報道する記者たちは庶民階層であり、「いわば庶民による庶民のためののぞき見報道」であり富裕層全体の実態を正しく反映しているとは思えません。
 欧米の著名ブランドが最近までこぞって大型店を東京にオープンして来たのもブランドの購買層が厚いからです。不動産価格や株価が上がれば「あぶく銭」でブランド品が飛ぶように売れ、また中間層以下が借金をしてでもブランド力に依存して自らの「格上げ」を図ろうとするからです。欧米は階層社会でありブランドの購買層は固定しており、逆に庶民が持つのは「背伸び」を通り越して身分知らずのお馬鹿さんのように受け止められます。ところが戦後「一億皆中流社会」をよしとしてきた日本では、流行れば何でも一斉に飛びつきます。もともと女性の購買権が強い国である上に、分割払い、質屋、リサイクル市場まであるのですからブランド各社はさぞや嬉しいに違いありません。
 そんな日本で一味違う種族がいます。女性経営者や大手企業の女性管理職の間では、ブランドづくめの人は「本人に実力がない小物」「見栄っぱり」として蔑視される傾向にあります。むしろ身につけている物をほめられたりすると「これは偽物。よくできているでしょう?」とか「セールの安物なの。お買い物上手でしょう?」などと自慢するのが快感だったりします。本当の勝負は人脈や役得ですので、経済的にはお得でも難易度は高いと言えます。
河口容子
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[326]続 言語の話

 会社員時代、国際会議で絶賛された課長さんがいました。彼が米英を含む数ケ国のメンバーで大型プラントの案件について会議をした時の事です。母国語である優位性から米国人、英国人が早口でまくしたて始めると、その他の国民がついていくのに精いっぱいとなり、考える余裕がなくなります。そこで彼は「皆にわかる英語で話してください。これは国際会議なのですから。」母国語民以外は一斉に拍手をしたそうです。彼は英語が得意ですから本人が困った訳ではなく、たぶんコーディネーターとしての配慮や場の雰囲気を変えるテクニックとしての発言であったと思います。
 ある国際機関主催の商談会で受付をしていた知人の女性職員が私を見るなり飛んで来たことがあります。「今日、すごく嫌なお客さんが来ましたよ。」「どんな?」「通訳は必要ですか、とお聞きしたら、きみはわしが英語できんと思っとるのか、っていきなり怒り出したんです。」「くだらない。だって、あなたは全員にそう聞いていらしたのでしょう?」「ええ、母国語でない方も多いので英語がおできになっても聞きとりにくいとおっしゃる方もいらっしゃいますので一応お聞きしております、と言ったら、ふん、と通り過ぎて会場へ行かれました。」「そんな人に限って後で騒ぎだすのでしょう?」「そうなんです。途中でこんな下手くそな英語はわしにはわからん、通訳は何をしておる、って怒鳴っていらっしゃいました。」「その方は本当に英語が話せたのかしら?」「通訳によると英語らしき言葉は一言も発していないとのことでした。」
 実は私自身も会社員の頃、タイ人の英語が電話で聞き取れず、バンコックに駐在経験のある同僚に代わってもらったところ、ちゃんと話が通じているばかりか同僚も同じような言葉を話しているで「タイ語も話せたのですか?」と聞くと「あれ、英語のつもりだったんだけど。」と言われ、お互いにばつの悪い思いをしたことがあります。インドに駐在経験の長い上司はふだんはおとなしいのに英語の電話を取り上げれば瞬く間にインド人に早変わり、巻き舌の支離滅裂な早口で英語を繰り出し、語学はまさに反射神経の賜物と言えます。
 現在、中国と東南アジアを中心に仕事をしていますが、国際交流が進んでいるせいか、「お国訛り」の英語を話す人が減ってきているような気がします。そんな中、日本のエアラインの機内アナウンスの英語は「伝統」なのかも知れませんが相も変わらず「お国訛り」で恥ずかしくて笑い死にしそうなことがしばしばあります。
 中国人の P氏は大学で日本語を専門的に学習後日本に留学、その後日本に10年ほど住み続けており、日本人よりも美しい日本語を話す男性でした。ある日、「ツキメン」と言いだしたので私の周囲の人が「えっ?つけ麺?」「いえいえ、月の表面のことです。」「それはゲツメンと読むのですよ。」と私。「河口さん、ゲツメンでしたか?私、ずっとツキメンと思ってましたよ。ああ、恥ずかしい、どうしよう。」「大丈夫、大丈夫。日本人だって間違って覚えていてある日突然恥をかく事が 2回や 3回はありますから。」「本当ですか?河口さんもありますか?」「ありますよ。だって日本語の読み方ってきちんと法則があるわけではないし、読んで覚えただけの熟語なら発音を間違って覚えることもありますよ。」彼は朝鮮族の中国人で北京語と朝鮮語のバイリンガル。日本語は三つ目の言語です。首相を筆頭に国語力が低下している一方、 P氏のように正統な日本語を継承している外国人も増えているのはありがたいような悲しいような事です。
河口容子
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