[154]仕事を支える電脳グッズ

 私が自分の会社を創立して 5年と数ケ月経ちます。決めたらすぐ行動しないと気がすまない性格なので会社員を辞めて10日後に株式会社の登記が終わりました。幸い退職金の一部を資本金の1000万円に充当できましたが、それ以上は出資しないし、借り入れもしないと心に決め守っています。最近出た本によれば、起業で成功するのは1500人にひとり、 5年以上続くのは5%ということですので、一応5%組に入れた事になります。
 2003年の 2月 7日号「ITのチカラ」でも書いたように私のビジネスを支えてくれているのはITの進化のおかげです。1976年の総合商社に入社した頃はパソコンはおろか、ファックスすら世に出現しておらず、コピー機もフロアに 1台か 2台でいつもその前に社員が並んでいたことを思い出します。当時、海外とのやり取りはテレックス(電信)や電話で行なわれ、世界中に張り巡らしたネットワーク(人と通信網)を新入社員や賓客に紹介するのが定番メニューでした。人と通信網から見ても総合商社とは資本投下型ビジネスなわけです。
 この部分を究極に節減できれば、驚くほどリーズナブルなコストで総合商社の持っているコーディネート機能や開発機能を伴う貿易実務を提供できるのではないかと考えたのが私の起業の発想の原点でもあります。想像外であったのはクライアントに日本企業はあまり増えず、政府機関や外国企業ばかりになっており、逆にそれが強みにもなってしまったことです。
 この 5年で私のオフィスも電脳化が充実してきました。クライアントのニーズと経費節減の努力による進化と言っても過言ではないでしょう。当初は電話回線も 2本で、 1本はインターネット接続にあてていました。ところが、比較的大きなデータをやり取りせねばならないクライアントの出現でインターネットをブロードバンドに切り替え、空いた電話回線を FAX専用にまわすことができるようになりました。
 会計ソフトは起業と同時に導入しました。もともと伝票業務が少ないという意味でコンサルタントというフィー・ビジネスの形態を考えましたが、この会計ソフトのおかげで決算業務も年に 4回ある消費税の申告も自分ひとりでらくらくこなせます。請求書や納品書のフォーマットも無料でダウンロードできるものが今はたくさんあります。
 講演の仕事が出てきてからはパワーポイントは必須アイテムですが、これも最近はおしゃれなテンプレートが無料でダウンロードできたりします。
 商品や展示会の写真を撮る必要性が出てやっとデジカメを買いましたが性能も良く価格がこなれて来た頃だったのでラッキーでした。何十枚とメールに添付するのはメールを何回も分けなれればなりませんので、そういう場合はフリーメールのフォトサービスにアップロードし、ウェブ上から見てもらう事にしています。これを使うと閲覧者や閲覧期間を制限することもできますので機密保持上も問題がありません。
 最近の携帯電話はカメラ機能がついていますので、デジカメを忘れたときはもちろんのこと 2-3枚しか写真を撮る必要のない時には便利です。この携帯電話も外出先で仕事をするのに大活躍で名刺に番号を刷り込んでいますが、業務用にしか使いませんのでオフにはスィッチを消してしまいます。
 スキャナーも活躍しています。カタログの薄いものなどはスキャンしてメールに添付して海外に送ります。郵送費の節約とビジネスのスピードアップにつながります。また、相手が何人でも一度で送れるというメリットがあります。このスキャナーもインクジェット方式のプリンターとコピー機を 1台でこなせる家庭用のものですが、コピーを一度にたくさん取ることがない私の業態では十分なパフォーマンスです。
 最近買ったのは私物ですが、 MP3メモリーレコーダー。出張など長い移動期間中の気分転換に軽くてかさばらず、いざとなれば録音機にもFMラジオにもなりますので、これまた電脳グッズのひとつです。
  PDAも買ってみましたが、手帳派(時系列的に何年も記録を残し、大量にメモを取ります。)のためこれはあまり使いみちがありません。
 こういった機器は必要になったら、目的に一番適した機種をできるだけ安く買うのが方針です。ただし、バックアップ用のパソコンを持ち、バックアップ用のプロバイダーの契約をするくらいの慎重さは持っています。パソコンというのはいつ何時故障するかわかりませんし、プロバイダーのサーバーダウンという事もあり得ます。小企業はこんなささいなアクシデントで信用や仕事そのものを失う可能性があるからです。
河口容子
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[019]ITのチカラ

[153]中国進出は物流戦略の段階へ

 先日、香港から物流関係機関および業者が10数団体「香港ロジスティック・ミッション」として来日し、セミナーが東京と大阪で開催されました。私は東京の会場であるホテルに行ってみたのですが、まさに大入り満員でした。
 貿易商の家に生まれた私は「香港トレーダー」というと子どもの頃から身近な憧れであったし、総合商社に入社したときは船舶の輸出をしていましたので香港の海運業の著名オーナーたちも取引先でした。時は流れ、香港が本土に返還されると一国二制度と維持したとはいえ、中国ビジネスの拠点は上海へ奪われてしまいました。そこで、失地回復とばかりに本土とのCEPA協定(香港と本土との自由貿易協定)を結び、中国ビジネスのパートナーとして金融、法務にすぐれた制度を持つ香港を活用してください、というキャンペーンを始めたわけです。香港は珠江デルタ地域にありますが、この経済圏は関東地方と同じ大きさに韓国と同じだけの人口を持ち、 GDPは台湾とほぼ同じです。中国の輸出入の三分の一がこの地域に集中しています。この地域に進出している外資系企業は 8万社にものぼります。
 私自身はたまたま香港の投資家が知人が話を持ちかけてくれたのとその弟が弁護士なので迷うことなく一緒に香港および中国でのビジネスを展開していますが、日本の知人には台湾人をパートナーとしている人もいますし、最近は本土と直接やっている人もふえています。たしかに昔の中国ビジネスを知っている人ほど本土と直接ビジネスをしたがらない傾向にあり、あまり国際ビジネスの経験がない人は先入観もリスク感覚もなくどんどん中国と直接ビジネスを始めていきます。事実、本土でのビジネス・インフラも目覚しいスピードで改善れていることも確かです。
 そこで次の手として香港が考え出したのが「アジア・太平洋地域のサプライチェーン管理拠点」です。これは完全に立地条件を活用したもので、飛行機で4時間以内にアジアの全主要都市に行けること、また5時間以内のエリアに世界の人口の半分が居住していることにあります。中国本土内のみならずアジア内での貨物量が急増していることからこの立地はかなり強みです。日本企業の中国進出も安い労働力を利用してコストを下げようという単純なレベルから抜け出し、複数の工場を持つ企業、また部品や下請企業もそろって進出したり、世界最大の人口をかかえる中国市場をターゲットとする企業など物流戦略は今後の重要課題となってきました。また、アセアン諸国との FTA協定が中国、日本ともに完全に締結されればなおさらのことです。
 さて、私の会社では香港・中国市場へ日本の消費財をコンテナ単位で輸出しています。また、販売の重要拠点は香港と上海にありますが、そのときの消費景気を見ながら揚地をコントロールしています。たくさん売れる所にコンテナをつけ、一部をその他の地域へ配送する方法です。輸出入に関するコストは本土に比べると香港のほうが高いですが、通関スピードや決済面での利便性を考えると総合的には香港に軍配があがります。取引先の日本企業が中国に工場を持っている場合はその工場から直に出荷をしてもらい輸送コストを下げています。 3年前サンプルをひとつひとつ買い集めテストマーケティングをすることから始め、SARS禍あり、反日運動ありで、身についたのは「忍耐と知恵」です。
河口容子