今年の 5月19日号に「中国ミッションのラッシュ」というテーマを取り上げましたが、夏に入り一段落、代わりにてアセアン諸国の動きが活発になって来ました。 3月23日号「がんばれ!インドネシア」ではインドネシアの投資セミナー、 4月27日号「反日デモはマレーシアに追い風となるか」ではマレーシアの投資セミナーの様子を取り上げましたが、 7月に入りベトナムとタイが立て続けにやって来ました。
まずはベトナムですが、日本商工会議所が主催したベトナム企業との商談会がありました。中国も含めてアジアのミッションに多いのは参加者のドタキャンです。当日行けば、目当ての企業は来日していなかったなどというのは不思議なことではありません。この日は話してみたかった相手 2社とも不参加で、ただでは帰りませんよとばかりにミッション・リーダーのベトナム商工会議所の部長の女性をいの一番につかまえて30分ほどお話をさせていただきました。彼女はハノイの貿易大学を卒業して日本語が大変お上手でした。彼女が力説するには「ベトナム人は真面目、親日家。これ一番大切なことでしょう。嫌われている所へ行ってもうまく行かないでしょう?」こんな事を平気で言うなんて。確かに日本のまわりには日本を嫌いな国だらけですから。
次にタイの投資ミッションで、これは東京にあるタイの経済投資事務所が主催したもので、「金型・金属部品産業における投資機会」と業種まで絞りこみ、資料も袋いっぱいそろっていました。最後にはケース・スタディとして実際に進出している大手合弁メーカーの日本側のトップとタイ側のトップそれぞれから講演があり、更なる興味を抱いた方は現地視察旅行というフルコース・メニューでした。最近はどの国でも総花的な話は減っており、業種の絞りこみや個別の商談会にウェイトを置く傾向にあります。
私が感じるには、こんなにミッションが来日するのは、各国ともよほど日本から投資を引き出したいのか、主催者の事業計画に入っているので無理やり実行するのか(でなければドタキャンはそんなに出ないはず)よくわかりません。日本のビジネスマンに言いたいのはこのような機会をもっと上手に利用すればいいということです。たとえば商談会に行けば、資料ではなく現地のビジネスの生の声が聞けるわけです。必ず公的機関の人も一緒に来ていますから、自分の必要とする情報を提供してくれるかも知れません。面倒だ、気後れするなどと言っていては国際ビジネスはとてもできません。
私自身は、今年に入ってからこのような商談会をきっかけにしていくつか新しいビジネスが生まれようとしています。偶然ではなく、これはと思う相手を事前に調べておき、こちらも資料を作成して話を持ちかけます。幸い外国人には日本人のように名刺交換やうわべだけの挨拶だけして帰ろうという人はあまりいませんので、限られた時間内でインパクトある話ができれば、まず成功です。まずはチャンスをつかむ、次は自分に引き寄せる努力をすることができれば仕事はますます楽しく充実したものになるはずです。
河口容子
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[147]人民元の切り上げをめぐって
7月21日に突然中国の通貨である人民元の切り上げが行なわれ、以後米ドル相場にリンクしていた為替制度を通貨バスケット方式に変更するとの報道がありました。
7月 1日に国内の取引先から人民元の切り上げについてどう思うかと問われ、次のように答えました。私なりにいくつかの視点があります。一つ目は中国にとって「有効」ないしは「即効性」があればとっくにやっていただろう。つまり、やれない、ないしは、やっても意味がないことなのではないか。
二つ目は米国は自国の貿易赤字の原因を人民元のレートにすりかえているのはないか。切り上げの幅にもよりますが、自国に産業が戻ってくるほどのことはあり得ないでしょう。
三つ目は、人民元切り上げにより中国内に輸入製品が安く出回ります。となると中国企業も競争が厳しくなり、倒産するところも出てくるでしょう。労働集約型産業はすでにベトナム、カンボジア、ラオスへ移りつつありますから、中国としては技術、設備、付加価値に力を入れなければなりません。
四つ目は、人民元の問題点はレートよりも国外では通用しない、つまり資金が流出しない、という点です。為替相場もないので人民政府は安定して国内に資金を留保できるというメリットがあり、レートよりそのほうが問題ではないかと思います。
五つ目は、中国の輸出品価格や沿岸大都市部の生活を見ると人民元は過小評価されているようにも思えます。ところが内陸部や農村にいくとどうなのかということです。日本人は「平均値」が好きですが、大国中国でそもそも「平均値」の意味なんてあるのだろうかと考えると人民元の価値を何をもって計るか、というところも問題のような気がします。
六つ目は、アジアの機軸通貨があってもいいのではないかということです。何でも米ドルにリンクさせて考える必要があるのかどうか。私が商社に入社したときは船舶部に配属され、船の輸出を担当していました。造船王国日本の最後の時代です。当時、貿易は 9割以上米ドル建ての取引でしたが、船の輸出はすべて円建てでした。1隻何百億円という契約もありましたが、みな円建て決済です。発注する船主さんもドルで払うなんて考えたこともない。つまり造船業界は円が機軸通貨だったわけで、これだけアジアの貿易(域内も含めて)が拡大してくるとアジアの機軸通貨があっても不思議ではないと思います。
そんないろいろな思いの中、突然人民元の切り上げが発表されました。 8月とも 9月とも言われていましたが、2.1%と小幅ながら変動相場制への可能性を見せたわけです。通貨バスケット方式というのは米ドルが乱高下したとしても影響が少なく、米国の人民元切り上げに対する圧力に譲歩しつつも、リスクと面子(米ドルリンクにはしない)は守るという非常に賢い最初の一歩だったと感じました。過去の日本の固定相場制から変動相場制への道を振り返ると、円高に対応できた企業はグローバル企業となり、昔、輸入品は舶来品として珍重されましたが、今は衣食住ほとんど輸入に頼っています。為替相場に関するビジネスや金融商品も生まれ、変動相場制が産業形態を変えたといっても過言ではないでしょう。広大な国土と多くの人口をかかえた中国は今後どう変わって行くのでしょうか。
河口容子
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