[360]ビジネスも「友愛」

 2009年 8月21日号「フランス人と盆休み」に出て来るフランス人女性コーディネーター Aさんとは意気投合してフランスの宝飾品メーカーの日本進出のお手伝いを一緒に行うことになりました。 Aさんは自分の会社を持っていますし、この宝飾品メーカーの社長も女性で女性社長のトリオで仕事を進めるという珍しい展開になりました。一方、 Aさんと一緒にお会いしたパリ在住の日本人男性コンサルタント Nさんには私の日本のクライアントのEU市場開拓のお願いすることになり、何となく知り合った Nさんと Aさんですが、これで3人とも名実ともに仕事仲間として強い絆で結ばれることになりました。3人で2案件獲得できたのも「友愛」、お互い引く所は引き、3人で最大効果を出すようサポートしあい、またクライアントへの配慮をしたからこその成果です。一人でも自社利益を優先する人がいれば、1件も成約していなかったはずです。
 一方、日本のクライアントのベトナム輸出のきっかけは2009年 7月17日号「心の伝わるメール術」に出て来るベトナム大使館の元商務官だった S氏が尽力してくれました。中国進出については私の香港のビジネス・パートナーが「コピー商品対策が問題だけれど、かつて取り扱って製品をよく知っているし、何てったって中国は世界最大の市場だから私がやるしかないね。」とやる気まんまんです。そのほか、この香港のビジネス・パートナーとは輸出案件が続々成約しています。いずれも知る人ぞ知る世界でオンリー・ワンの商品ばかりです。
 シルバーウィークに日本の公的機関に管理職として勤務する女性の友人があるデザイン学校主催のファッションショーに連れて行ってくれたのですが、何と二人とも見かけによらずミシンで縫うのが大好き。並んで来賓席に座って縫物談義に花を咲かせました。「ところでこんな不況なのにどうしてそんなに仕事があるの?やっぱり今まで地道に堅実なビジネスを続けてきたからでしょうね。」と彼女。「私のやっているのは普通の会社では逆立ちしてもコストに合わないような話ばかりだから。その代わり相手は選ばせてもらいますよ。新しいビジネスを立ち上げる苦労は納得できない限りやれませんから。」
 ここ 7-8年売り込みというのは一切やったことがありません。特に母が病気をして以来、満杯に仕事を取らないようにしています。欲がなくお人よしに見えるのか、暇そうに見えるのか、ありがたい事にクライアント、知人、友人がお仕事をどんどん作り出してくれるのです。起業1年目はほとんど仕事がなく、詐欺商法やストーカーまがいの電話に悩まされオフィスでひとりぽろぽろ泣いていたのが嘘のようです。
 特に実感しているのは中小企業のパートナー選びは冒頭で述べたような人間関係が大切ということです。信頼しあえること、多少の問題が起きても許しあえる関係構築が必要です。大企業は体力がありますので利益優先でかなりの荒技も使えますが、中小企業はひとたび騒動に巻き込まれると全精力を使い果たしかねないからです。
 メインバンクの法人担当者からも「最近、良い話は一切聞かないのにすごいですね。」実は引合は山ほどあるのです。日本、海外と中小企業は国際化に必死ですが、大企業に比べ、資金はもとより経験、ノウハウ、人材にも恵まれていません。リーズナブルな価格で親身にフレキシブルにサポートしてあげる企業や人材がまだまだ不足していると痛感します。
河口容子
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[303]体力と耐力

[359]中国投資家のフラストレーション

 香港の国際経営戦略コンサルタント会社のパートナーとしてお呼びがかかったのは2009年 4月 2日号「占い通りの新しい春到来」で書いた通りです。私の役目としては中国の中小企業(ないしは投資家)向けに日本からの技術、デザイン、ノウハウ面での支援です。リーマンショック以来、特に世界中が頼みにしている中国、しかも世界最大規模の市場にあって、さて、どんな案件が来るのかと興味しんしんの毎日でした。私たちのターゲットは借入も含め数千万円から数億円程度を投資できる企業や人ですので、ある程度の規模の事業構築が可能です。以下はここ数ケ月から私が感じたことです。
 投資家たちが最初興味を持ったのは「ブランドビジネス」でした。欧米や日本の高級ブランドのライセンス生産をしようというものです。いよいよコピー商品路線からの脱却かと喜んだものの、私は二つの不安がありました。お金を持てば天下を取ったような気分になる中国人(全員とは言いません。そういう傾向が強いと思ってください。)にブランド・イメージを守るためのいろいろな制約に従順に従えるのか、そして、流通関連の仕事をしようとする人は生産そのものに関してはあまり経験がない人が多いのでライセンス商品を作って送り出して行くノウハウがあるのか、です。私の不安は見事というか残念ながらというか的中しました。
 また、ある行政機関は先進国のブランドを一同に集めて中国側業者と商談会をやろうと言いだしました。アイデアとしては素晴らしく実現したらたいしたものです。ところが、世界に冠たるブランドが貿易見本市のごとくブースを並べて中国の業者と次から次へと商談をするわけはありません。人気のあるブランドの本社には取引を願う業者が世界中からコンタクトしてくるのです。中国人からしてみればお金を払う側が何でわざわざ頼みに行かねばならないのかまだ十分理解できていないようです。
 香港や中国では「欧米や日本とコネがある」というだけで多くの引合いが寄せられます。その意味で上述の会社や香港のビジネスパートナーにとって私はビジネス・チャンスのきっかけを作る意味では貢献しているような気がします。ところがやはり日本の産業構造や流通のしくみを理解できていないことが多いのも事実で2009年 7月30日号「香港トレーダー」で書いた粉ミルクや化粧品のような話が実に多いです。
中国は人脈社会ですので知人友人のネットワークを広げてビジネスを展開するケースが多いのですが、情報収集力がその人脈だけに限られてしまい、いわゆる経済ニュースなどをよく見聞きしていない事も気にかかります。彼らが一生懸命に考え、小規模からぼつぼつ始めようと思ったところで、日本をはじめとする先進国が中国本土ですでに大仕掛けのビジネスを展開しているケースもよくあります。私は毎日人民日報の日本語版をインターネットで読んでいますが、ビジネスを立ち上げるのだったら、そのくらいは常識なのに、と思う事しばしばです。
先進国諸国が経験や知識を駆使して中国市場をものにしようとしのぎを削っている中、中国企業は厳しい競争を強いられます。これはどの途上国にも言えますが、外資は利益が取れなくなれば撤退してしまうリスクがあります。中国の持続的な発展のためにも中国企業の育成が強く求められている気がします。
河口容子
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