取引先の役員で毎年フィリピンにゴルフに行くのを楽しみにしておられる方がありました。時には奥様も同行されます。もちろん料金が安く、キャディさんがギャラリーのごとくいっぱいで、日傘をさしかけてくれる人、冷たい水の入った水差しをお盆に持ってついて来る人、汗をぬぐってくれる人と至れり尽くせりのサービスのようです。「日本ではこんな贅沢はもうできないのだから、途上国は気分がいい。」という発言に、世界各地の途上国でいくつも工場を立ち上げ、現場で指揮をしてきた経験の持ち主にしてこんな発想なのかとかなりがっかりしました。それを悟られ「少しのお金で豪遊できてどこが悪いのか、彼らだってお金がもらえなかったらもっと貧乏になるのだ」とまで言われました。確かにおっしゃるのは事実で、それがひどく悲しかったのを今でも忘れません。
日本人の多くは途上国に行くと、つい日本の物価と比較して「タダみたいに安い」と欣喜雀躍、ついついお金をばらまきます。しかし、冷静に考えると現地の人からみればとんでもなく高いものだったりします。インドネシアや中国の高級レストランで 3-4人で食事をすれば日本よりははるかに安くても、現地の工場労働者の 1ヶ月分の給料の金額だったりします。五つ星のホテルにしても東京のホテル代と部屋の狭さから考えると嘘みたいですが、現地に暮らす普通の人はそんな所に泊まるなんて想像もしたことがないでしょう。日本人からみればつかの間とはいえ、極楽ですが、経済格差というマジックの上に乗っかっただけの話で何も自分が偉いわけではありません。日本ではごくごく普通、途上国に来たとたんいきなり大金持ちと錯覚して横暴に振舞う日本人たちの姿は現地の人にはどのように写っているのでしょうか。
[053]第一印象
私は自分の会社を作り、商権ゼロからスタートしました。取引先はほとんど自力で初対面から開拓したものです。大企業に勤務していれば、多少第一印象が悪かろうが、何らかの理由でその日不機嫌であろうが、会社の看板や肩書きで最低限の信用を得ることは可能です。理屈では誰でもわかっていても在職中会社の看板のありがたさを感じることは少ないと思います。いったん独立してしまえば、第一印象がまさに勝負、自分のビジネスチャンスになるかどうか、あるいは相手を信用していいかどうかの分かれ目となります。
いつも心がけているのは、相手の立場にたって、どんな情報がほしいのかを考え準備することです。したがってお渡しする会社案内も相手によってまた取り組む内容によって添付資料の構成をいつも変えています。そして、相手の組織や商品に対し、好意をもって積極的に質問することです。誰でも自分の所属する組織や商品、サービスに対し関心を持ってくれればうれしいものです。これは印象を良くするためのお世辞ではなく、相手からの応答はこちらにとっても今後の取り組み方を決める大事な情報となります。
昨年、広州の量販店のバイヤーたちと会ったときのことです。たまたま広州に出張中であった知人の流通コンサンルタントが彼らにレクチャーをして意見を聞いてみたいというのでそういう機会をアレンジしました。彼としてはクライアント獲得のチャンスでもあります。彼は大学院でもマーケティングを専攻し、日本を代表する流通業3社に籍を置いた理論派のコンサルタントです。結果は見事失敗でした。バイヤーたちはもっと現場で日々役に立つアドバイスがほしい、独善的な態度が好ましくない、とその第一印象を評価したようです。彼自身も後日、国家機関から招聘され中国にわたって何年も仕事をしてきたため、自信や責任感がいつの間にか不遜な態度に変わっていったと反省していました。