先週、香港貿易発展局にウェブ・カンファレンス・システムのデモを見にいって来ました。SARSにより激減している商談を何とかITを使って復活させようと7月末まで無償で同局が提供しているものです。
かつて会社員の頃、テレビ会議システムを使ったことがありますがこれはお宝グッズに近く、設備そのものといい、通信費といいかなりのもので滅多やたらに使えるものではありませんでした。電話会議は比較的コスト安ですが 3ケ所以上や多数の人間が参加する場合は顔が見えないと進行役の人がかなり苦労します。特に初対面の場合はメールや電話だけではお互いに理解しにくい場合もあります。また、東京-ニューヨークのように半日以上時差がある所どうしではお互いに早出や残業を強いられます。「百聞は一見にしかず」のことわざどおり、情報の伝達手段がいくら発達しても出張が永遠になくならないのはこの辺に理由があります。
その行きたくても行けないビジネスマンをサポートしようというのがこの試みです。ユーザーは無償で与えられるソフトウェアをダウンロードし、パソコン用のカメラ(1万円程度)を買うだけです。たとえば香港を基点に日本のオフィスと広東省の工場でパソコンの画面に映し出される顔を見ながら会議ができるのみでなく、インターネットのサイトを開きながら説明をしたり、パソコンで作った文書やデータを見せる、メールのやり取りも同時に行うことができます。また、ホワイトボードを使って各々が決められた色のマーカーを持ちデザインをこうしよう、ああしようと討議することも可能です。全機能を駆使しようと思えば千手観音のような技が必要で、とおりいっぺんの形式的な会議に慣れている人やパソコンの初心者にとっては冷や汗ものではないかと推測します。
しかしながら、デモを見に来られた方がたは無償期間が終了しても業務の効率化に引き続き役立てたいと積極的でした。私自身は何よりもこういうサービスを即無償で主たる取引国すべてに提供するという香港の行政の機転に驚くばかりです。先日、私のオフィスに「香港ファッションウィーク」という見本市の招待状が届けられましたが、初めて来場するバイヤーにはホテルの宿泊費まで負担してくれると書いてありました。旅客の激減した航空会社を救おうと地元小売業界では景品として海外旅行の航空券が使われるなど、ただでさえ景気の低迷している香港が生き残りをかけて一丸となって頑張っているというのが伝わってきます。日本はもう一丸となって頑張る元気さえなくしているのでしょうか、それとも成熟化社会でそういう国民性になってしまったのでしょうか。
河口容子
[033]国際詐欺団
ある日、知人が「外国から FAXが来て、私にお金を預けたいと言っているみたいなんだけど、どうして私の名前や会社の連絡先がわかるんだろう?よくわからないので見てもらえます?」知人は国内でアパレル関係の会社を経営していますが、海外との取引は一切ありません。英語もほとんどわかりません。「ああ、これは今流行の詐欺ですよ。お金を預かってもらったかわりにお礼をあげるといって、保証金などを前払いさせ、ドロンする手口です。」と答えた私に知人は、半信半疑ながらも見知らぬ紳士がお金を託してくれるという喜びもつかの間、落胆から怒りへと顔色が変化しました。知人の会社は万年資金難ですから本当の話なら、まさに「棚からぼたもち」だったのです。
この手のメールや FAXはナイジェリアを中心に西アフリカの国から来ることが多く、起業して初めてもらった時は上記の知人のように行ったこともない国の見たこともない人がどうして私にこのような大事な話をよこすのだろう、私も国際的に有名になったもんだ、といううれしさとひょっとしたらこれが天運かも?と思いがちらと胸をよぎりました。
しかし、冷静に自分が逆の立場で考えると、見ず知らずの人に大金を預け、法外なお礼を渡すわけがありません。差出人は政府高官であったり、元プリンスなどという VIPです。私にメールが来ると言うことは他の大多数の人にもたぶんメールが発信されているわけで、そんなことをしてまでも預けなければならない資金が本当にあるとすればまともなお金であるとは思えません。メールの中に「この資金は違法なものではありません」とわざわざ書いてあるところがますます怪しく見えます。
ところが、世界中でこの「おいしそうな話」に引っかかる人は多いらしく、前払金を取られるだけならまだ知らず、現地にお金を持参して殺されたケースまであると聞きます。私など最近はこの手のメールが来るたびに今度はどんなストーリーになっているかしらと楽しんでいるくらいですが、 1日に同じ人から 3度もメールをもらった時はさすがに頭に来ました。
この手の詐欺は日本から発信される場合もありました。一時多発した出資法違反的な詐欺ですが、何とインドネシアの友人がその会社に投資をしようとしていたのです。私が調べた段階ではその会社は日本では訴訟中でしたが、東南アジアに現地法人がいくつかありました。インドネシアでも華人のビジネスマンたちは日本のエリートサラリーマン以上の年収で、しかもダブルインカムの場合も多い。生活費が安いため、あまったお金をどんどん投資していきます。「日本の会社なら」という安心感を悪利用した手口です。
経済のグローバル化とともに犯罪もグローバル化していきます。人間に一攫千金や楽して儲けようという意識がある限り、この手の犯罪は仕掛ける方も引っかかる方もどんどんエスカレートしていくような気がします。おいしい話は疑ってみよう、最悪の事態を考えて土地勘のない国、現地に信頼できる人がいない国とは取引をしない、というのが今の私の方針です。
河口容子
【関連記事】
[306]急増する国際詐欺
[260]賄賂と癒着