田中外相更迭劇

  3月に海外出張を予定している私を悩ませているのが、田中外相、野上次官更迭問題です。外国人に説明するには難易度が高そうな話です。

 このバトルの発端は東京で開催されたアフガン復興会議に特定の NGO団体を出席させなかったのは鈴木議員のさしがねかどうかというものです。登場人物は外務省の次官や局長といますが、会話を聞いている人が何人かいるはずで、当の NGO団体の代表は「名前が出た」と明言しています。こんな子どもでもできそうな真相解明ができず、言い合いのまま衆院の予算委員会まで中断させることになってしまいました。

 一連の騒動は実に多くの問題点を示唆しています。まずは NGOの出席を認めなかったのは鈴木議員のさしがねによるものなのかどうか。もしそうだとしたら、鈴木議員になぜそういう権限があるのか、外交のプロたる事務方が言うことを聞かざるを得ないのはなぜか。次に外務省という組織は大臣には何も相談せず判断行動していたのかどうか。もしそうならそれは田中大臣だからなのか、長引く政局の不安定で大臣というポストをなめているのか。最後に嘘かどうかなぜ解明できないのか。解明すると何が起こるのか。

おそらく、誰が嘘をついているかは国民が推測するところと合致しているものの、嘘をついている方の人数が多すぎるのと、田中外相にも過去更迭の危機は何度もあり、そこを突かれると本末転倒の更なる茶番劇が税金を費やしてエンドレスに行われるという危惧から小泉首相は役者を全員ステージからひきずり降ろしたのではないかと思います。ただし、事の発端から見ると結果は奇妙に映るし、いちいち問題点をつぶしていったら予算が成立しないどころか失脚という中での苦渋の選択であったと思います。

やはり基本的に問題なのは外務省の体質であり、民間企業であれだけ多数の処分者を出し、社員一丸となって社長に反抗し、その社長も要人との面談をすっぽかすし、遅れるし、嫌なところには行かないというのでは、とっくの昔に社会的に抹殺されているはずです。税金という収入が入って来るから存続させてもらえるだけで自分たちが偉いからではないと外務省の人々には多いに反省していただきたいと思います。当事者の意識なくして改革はむずかしいものです。

米国同時多発テロ事件でのニューヨーク総領事館の対応は非難轟々で、ニューヨーク在住の緒方貞子氏のところですら安否の確認はなかったとご本人が事件後にインタビューで答えておられます。私自身も米国のある都市の日本商工会の文化交流プロジェクトで来日した米国人おふたりを連れて外務省を訪問し
たことがあります。驚いたことに英語での説明をいただけず、専門用語の羅列に通訳に四苦八苦した嫌な思い出があります。同じ日に訪問した文部省の方がはるかに客をもてなし、自分たちも学ぶという態度に好感が持てました。

いずれにせよ、今回の更迭劇でわかった事は、政治家も官僚も自分たちの都合で動いており、国民の方には向いていない事です。最終的にはこんな政治家に票を投じ、税金も言われるままに払う国民に責任が問われるのでしょうが。

2002.02.14

河口容子

雪印事件に見る日本の構造

 ブランドたる最低の条件は何か、どんな商品についても共通していえるのは品質の良さと安心だと思います。食品においては安全性は当然、消費者に対しても配慮が行き届き、商道徳、ましてや法規を逸するなどはもってのほかです。その信頼性ゆえにブランド品はノン・ブランド品より高く売れるわけです。そういう意味で雪印の牛乳事件と今回の一連の牛肉事件は消費者に対する裏切り行為であり、自らのブランドに泥を塗るような事件であったと言えます。私は第一報を聞いておそらく大なり小なり、不正事件は恒常的に行われていたに違いないと想像しましたが、案の定いもづる式に出て来ました。もちろん、雪印に責任はありますが、こんな事件をひきおこす日本の風土を考えてみました。

 大企業ならではの事件。雪印のような大企業が不祥事を起こすと世間に与える影響も大きく、社会的責任を取らざるを得ません。では、有名でない中小企業が起こしたらどうなるのでしょうか。影響力が小さい、たいした金額ではない、仕方がない、マスコミから見ればニュースとしての価値がない、と見過ごされているのではないでしょうか。スーパーで賞味期限や成分表記を細かくチェックして買う消費者を裏でせせら笑っているようなラベルの改ざん。ルールをまじめに守って利益が出ず倒産する企業が出るとすれば、まさに正直者がえじきになる社会になっているとしか言いようがありません。

 日本人のブランド好き。特にバブルの頃はそうでしたが、話を作りあげてはブランド化してしまい、それを妄信して何の変哲もない商品に浮かれたように高いお金を払う日本人がたくさんいます。こういう日本人がたくさんいる限り、ブランドという名前だけを利用してあくどく稼ぐ人たちが出てきます。

 業界団体。たいていはトップ企業が幹事会社として牛耳っていて、大きい団体なら所轄官庁から天下り役人もやってきます。中小企業はそこへ所属することにより、お墨付きをもらって企業として存続させてもらえ、大企業がおいしい部分を取った残りのお皿のふちをなめさせてもらうような立場にいるのではないでしょうか。これぞ護送船団方式、すなわち一業種にたくさんの企業がありすぎる日本ならではの共存の構造です。

 族議員とつるんだ役人により湯水のように使われる税金。英国の狂牛病を「明日はわが身」と思っていなかった農水省のおかげで、消費者は完全に不信感を持ってしまいました。当然生産者は困ります。補助金を出して黙らせればいいという政策を利用したのがこの事件です。補助金を申請しても詳細なチェックがなされないのはふだん見返りをいただいている人々がわざと知らん顔をしているとしか思えません。

 セーフガードの時も思いましたが、業界団体により、そして最近の大型倒産にしても企業により、救ってもらえる場合と見殺しにされる場合の差は何なのでしょうか。それは国民の意志を反映したものなのでしょうか。好き勝手に税金を投入した挙句政府は借金だらけとなっています。日本という国は末節の部分、すなわち一般国民の払う税などについては非常に精密な制度を運営していますが、大金の動く根幹の部分は何度事件がおきても灰色です。日本は倫理を失わなければ生きていけない犯罪国家の道を進んでいるのでしょうか。

2002.02.07

河口容子