[342]これぞ日本式経営の弱点

先週号で中国の小規模投資家はライセンス・ビジネスやフランチャイズ・ビジネスに関心があると書きましたが、理由は簡単です。たとえば今後上場しそうな中国の中小企業に投資したところで同族経営の中でもみくちゃにされるだけ、また上場までにいろいろ改善しなければならない点があまりにも多いからです。一方、先進国からのブランド・ネームやノウハウを借りてビジネスをすれば自由に手っ取り早くビジネスになるからです。彼らにとってビジネスとは日本人が株式や投信を買って運用するのと同じ感覚です。一定の仕事に対するこだわりや社会貢献というような高邁な精神ではなく、空気を読んで判断し、投資をし、利益を得る、それだけの事です。ですからタイミングが重要です。
 先進国でライセンサーやフランチャイザーを探さなくてはいけない私は、この話を聞いた時、日本企業はまず無理と判断し、2008年 1月31日号「パリの日本人」に登場する在仏日本人コンサルタント N氏に応援を依頼しました。案の定、資金負担がないとあってフランスをはじめヨーロッパ企業がリストを作成しなければならないほど名乗りをあげてきました。 N氏も「日本は景気が悪い、悪い、と報道されるので欧州企業は誰も見向きもしてくれないだけに中国の話をいただけて本当にうれしい。」と大張りきりです。
 実は先日アセアン諸国関係者のカクテル・パーティがあり、「大袈裟な不況報道のおかげでアセアン諸国も日本に関心を持たなくなることが不安」という国際機関の管理職のご意見もありました。実は私の周辺では失業者などどこにも見当たらず、近隣のちょっと高めのレストランや美容室はいつも満員、逆に安かろう悪かろうのお店は撤退して行きます。私の日本のクライアントは未曽有の売上と利益を更新しています。おそらく業界や地域により明暗がくっきり分かれているのではないかと思います。
 なぜ上述のように日本企業はだめとさっさと判断したかと言うと、ボトム・アップによる決裁スピードの遅さ、サラリーマン根性による自己保全、排他性と職人気質によるフレキシビリティのなさが新規事業への積極性をはばむからです。また、中国にはすでに製品を輸出していたり、アンテナ・ショップを出していたりするため、急に方向転換ができない、ということもあります。タイミングを逸する条件がこれだけ揃えばアプローチをする気も失せてしまいます。
 一方、トップダウンの小型企業やベンチャー企業には有利な時代になったと言えます。大手企業に比べ月給が高いとは思えませんが、社員一人一人が懸命に夜中まで「自分の会社」のように仕事をしている姿は非常にすがすがしく目に映ります。
 フランスの N氏は「世界的不況でフランスでは起業する人が増えた」と言います。「雇用条件が悪くなっているから、自分でやるしかないと思い始めた」のだそうです。「日本はサラリーマン至上主義で子どもの頃から独立せよという教育を誰もしませんからね。なかなかフランスのようにはいかないでしょう。」と私。ベトナム人の知人が「ベトナムは社会主義です。日本は会社主義です。」と見事な日本語で私を笑わせてくれたことがありますが、会社に依存できなくなった今、日本は何主義になるのでしょうか。
河口容子
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[341]10年目にして思うこと

この 5月10日をもって起業10年目に入りました。丸9年間での印象深い出来事は自宅の改造 2回、母の病気、私の手術とプライベートな事ばかりです。もともと母の高齢化を考え、家事をしながらたった一人でどんな仕事をいつまで続けられるかという実験も兼ねての起業でしたが、外にはオフィスをかまえない、 365日営業体制、で臨んできたからこそ達成できたとも言えます。
 年に 1度、信用調査会社からデータの更新用に電話がかかってくるのですが「社長のところはもう長いから安心ですよ。」とお世辞半分に言われます。私自身は決して「長い」とは思っていませんが、起業してもほとんどが 1年もたたないうちに消えていくそうです。
 会社員の頃からの知人である流通コンサルタントが「そろそろリタイアしかかっているから客観的にものごとが見えるのだけれど、あなたは中国への日本製品の輸出といい、ベトナムといい、いずれも他人に先駆けてやって来たからすごいなあと改めて思うよ。」と言ってくださいました。「私の会社は小さくてニッチなサービスを提供していますから、軌道に乗っている大きな仕事や誰でもやれるような仕事はいただけません。だから芽はあるけれどまだ皆が見向きもしないような所からしかお声がかからなかっただけです。」と私は笑って答えました。「それはやっぱり商社で培った勘があるからだよ。」確かに基本動作は商社で教わったと思うものの、一人企業だからこそ信用第一、自分の使命や社会貢献を意識しながら仕事をしてきました。また、尊敬でき、信頼できる相手を慎重に選んできたため、そこから人脈がどんどん広がったような気がします。
 2002年から日本の中流の少し上の層が好んで買いそうな紳士服、婦人服、ファッション小物、インテリア小物、ギフト・アイテムなどを香港、中国向けに輸出し始めましたが、周囲からは「日本でも買えない人がいっぱいいるのに中国でそんなものが売れるとは思えない。」とよく不思議な顔をされたものです。昨年からは日本酒の輸出をスタートしました。中国は地域ごとに嗜好や消費性向が違うのと、日本人より熱しやすく冷めやすい案外難しい市場のような気がします。また、日本ではだいたい欧米の高級ブランド-日本製品-途上国の安価な商品という商品構成になっていますが、中国では日本製品は欧米製品と対等に比べられるわけですから、中国市場内での競争もおのずと厳しくなります。「衣」関連ではお金持ちはインターナショナル・ブランドを優先的に買い、日本製品については品質が良く割安感があれば買う、という感じのようで、日本製品は品質やデザインが良いから買う、珍しいから飛びついて買うという時代はもうとっくに過ぎ去っています。
 香港も含めて中国の小規模投資家にとってはライセンス・ビジネスやフランチャイズ・ビジネスに関心が集まっています。私がパートナーをお引受けした香港のコンサルタント会社も日本や欧米のライセンサーやフランチャイザー探しに大忙しです。お金を持っていても投資するネタがないのでしょう。「共同出資なんかしていらないかわりに口は出すな。ただし、必要な事はしっかり教えて。」という按配で、まさに人民元札で頬をたたくような勢いです。
河口容子
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