正直者が得をする社会

 どんなに世の中が変わろうと許せないのは「正直者が損をする社会」、そして「親切があだになるような取引先や人」です。意地悪かも知れませんが、私は時々相手がどういう対応をするかをチェックすることがあります。

 会社員の頃です。職場にある取引先から同じお菓子がお中元として2回届けられました。取引先がデパートの外商に出したリストに重複して記載されていたか、デパートの手配ミスでしょう。「ミスをしたのは相手なのだからそのままいただいておこう。」という部下を押しとどめ、「いつかは誰かが発見するはず、それまで黙ってもらっていたと思われるのは企業の信頼にかかわる。」と私は言いました。

 デパートの外商にまず電話を入れ、調査をするように依頼しました。ここでのチェック・ポイントはまずこのデパートの担当者がきちんと調査をするかどうかです。繁忙期でもあり「数千円のお菓子1箱くらいで面倒だ。」と思うかも知れません。小1時間ほどたって、取引先の秘書役から電話が入りました。「私どものリスト作成に手落ちがございましていお恥ずかしい限りでございます。ご丁寧にご連絡を下さるとはさずが○○社様でございます。ありがとうございました。よろしければそのまま皆様でお召し上がりくださいませ。」というものでした。

 次は最近の例です。私の零細企業でもオフィス用品の通販を利用しています。文房具が割引価格で買え、買いに行く手間暇も省けるで大助かりです。いつも少量多品種の発注なのですが、間違った商品が入っていることはありません。ところが、その日に限って間違ったファイルが入っていました。サイズは同じなので別にこれでもいいと思い、念のためカタログを調べたところ私の発注したものより44円高い商品でした。これも黙ってもらったところでその会社の損失は44円で、コストからすると対応の手間隙の方がばからしいかも知れません。ただ、私はミスがあることを伝えた方が今後のミス防止にはつながるし、44円といえども薄利多売な業界で黙ってもらうのは失礼と思いカスタマー・サービスへ電話をしました。

 ファイルは間違っていたけれど不具合はないのでそのまま使うこと、価格は高い方へ修正して請求してほしいと伝えたところ、担当の女性は「誤った商品をお届けして申し訳ありませんでした。明日私が発注された商品を責任を持ってお届けするようにいたします。本日届いたものはよろしければそのままお使いください。」というかえって申し訳ないような対応でした。

 上のふたつの例は、私の正直さに見事に応えてくれた企業であり、業績もすばらしいだけに企業にとって「顧客に対する細かい配慮、真摯な姿勢」がいかに大切かを教えてくれる材料となっています。逆に同じようなけースでも踏んだり蹴ったり、電話をした事を後悔させられるような思いをした企業も多々ありますが、長い目で見ると衰退していくケースが多いようです。

 企業のみならず、対人関係も同じです。現在は金銭だけで「勝ち組、負け組」と分けていますが、正直者を平気で踏みにじるような企業や人はいくらお金があっても「負け組」と言える世の中を作っていきたいものです。

2001.04.13

河口容子

日本の組織

 「求人充足率が意外に低く、求人と応募者のスキルのミスマッチ、職業教育が急務」という記事を新聞で見つけました。求人した企業のアンケートを取ると「ほしいレベルの人材が応募して来ない。」という回答が多かったという説明です。リストラ、終身雇用の崩壊で多くの優秀な人材が求職しているはずです。また、労働観もバラエティにとんだものになっており、小さい企業や有名な企業でなくても良い人材を取れる時代になっているはずです。労働市場で何がおこっているのでしょうか。下記が私の気づいた事柄です。

 まず、「求人広告」イコール求人活動ではないことです。「宣伝行為」としての求人広告もある、つまり儲かっている会社に見せかけるポーズで実際に人など欲しくないケースです。最近は就職サイトの普及により無料で求人広告を出せます。これを悪用して他人の名前をかたり、偽の求人広告を出して世の人を惑わせて楽しんでいる人もふえていると聞きます。本来、良い企業なら求人広告はしなくても希望者から問い合わせがあります。次に、「人海戦術」で社員や取引先に適材を紹介してもらう、あるいは斡旋会社に依頼するという形式が取られ、広告は最後の手段ではないかと思います。

 「ないものねだり」の求人広告も目につきます。たとえば「MBA、○○の経験何年および△△の経験何年以上、35才まで。」など、そのような優秀な人がごろごろ遊んでいるとも思えません。CPA、CFP、TOEIC何点以上などと資格偏重の傾向も見て取れ、行政が職業教育など施さなくても既に転職希望者はどんどんこういった資格取得に向け日夜励んでおり。教育産業はさぞや儲かっているに違いありません。

 その一方、ある転職サイトのアンケートでは応募者のエントリー・シートで企業が重要視するのは「年齢」、次に「勤務地」となっており、ITや英語といった技能に対する関心は順位が低いという結果を見つけました。

 たとえばこれらの求人に女性や外国人で適任者が社内にいたり、応募してきたとします。この企業は喜んで登用するでしょうか。日本企業なら9割以上が「ノー」でアンケートの答えは冒頭の「ほしいレベルの人材が応募して来ない。」となると思います。男性の場合は長所を見て登用、昇進が行われるのに対し、女性や外国人に対してはまずマイナス要因が大げさに取りざたされ、それを補って余りあるほどの能力がなければ候補にも上がらないのがまだまだ現状ではないでしょうか。

 「終身雇用」や「年功序列」の崩壊で、働く側は資格取得の勉強やフリーター、SOHO、起業家、あるいは海外へ職を求めるといった新しいワーキング・クスタイルの樹立でフレキシブルに対応しようと努力しています。それにひきかえ、企業側は「中高年の悪者視」「若くて有資格者尊重」といった身勝手なトレンドを作りあげ、実際は低コストで使いやすい人材を探し求めている気がします。中には若手もすべてリストラの対象で、一年中中途採用者と置き換えている企業もあると聞きます。

 人事は企業の鑑です。形式やコストだけにとらわれない人事施策を行っている企業には活力があります。「文句のつけようがない応募者」が来るのを待ち続けるより、いつでもおのずと人の集まる魅力ある企業、人を上手に育てられる企業を目指さなければ大競争時代をどうやって生き延びるのでしょうか。

2001.04.06

河口容子