「くたばれ専業主婦」なる本を書いたという女性と専業主婦たちの猛反撃をテレビで見ました。専業主婦が扶養家族として優遇されているのがけしからんと言うのなら、これは税制をはじめ社会保険などのしくみの問題であり、専業主婦が悪いわけではありません。また、有職主婦に対して、家事育児をおろそかにするな、と一方的に攻め立てるのも他人のあら捜しをして自分の行為を正当化するという手法も不愉快にしか思えませんでした。
以前、キャリアウーマンの大先輩の講演で「専業主婦が出現したのは長い人間の歴史でごく短い期間だけ」という話を聞き、大変感銘を受けました。昔は農家であれ、商家であれ主婦は夫と一緒に働いていました。今でもそうでしょう。日本の近代化が進むにつれ、都市に住むサラリーマンがふえ核家族が出現します。サラリーマンでは使用人は雇えませんので主婦が家事育児を担当するのが合理的な方法として定着したのだと思います。
ただ、様変わりしたのは家電の普及や各種サービスの発達により家事は楽にしようと思えばいくらでもできる、少子化、さまざまな才能をもつ女性がふえた、という環境下で広く社会で自分の力を試したいという女性がいてもこれはおかしくありません。
私自身は一度も専業主婦になったことも、あこがれたこともありませんが、専業主婦はまじめにやればやるほど大変な役割ですし、それに意義を見出す人がもっといてもいいと思っています。むしろ、「仕事をしていないと無能よばわりされる」「暇だから」というような中途半端な気持ちで社会に出て来られる方がよっぽど迷惑です。
こういう論争で一番嫌なのは10羽ひとからげ的な決めつけです。これはある意味では心ない発言です。たとえば、母子家庭で働きながら子どもを育てている人にとって「家事育児をおろそかにするな。」という意見は本当に辛いものですし、病弱だったり家庭の事情で才能も意欲もあるのに働けない主婦の人もいるわけです。以前にも書きましたが、百家族いれば百通りの家族事情があります。それを無視して勝手に「けしからん。」というのは僭越かつ浅はかな話に思えてなりません。
4人のお子さんを産み育てながら会社員をしていた女性は残業もよくやっていたし、昼休みを活用して英語の勉強をし、また和服の着付けもマスターしました。英語は自分のため、着付けはお嬢さんに自分の手で和服を着せてあげるためだそうです。商社の駐在員の奥さんは専業主婦ですが、見知らぬ海外の町へ着いた日から家族の食事の世話、子どもの学校と生活全般を取り仕切っていかなければならないわけです。自宅で接待をする必要があるため50人分の食器をはるばる海の彼方へ運んで行った奥さんもいます。
人間は一生懸命打ち込んでいる姿が一番美しいものです。世間の目におびえたり、他人を批判するのではなく、自分らしい生き方を与えられた環境の中で精一杯実現すれば家族はもちろんのこと他人をも感動させることができるのではないでしょうか。
2001.01.19