[298]ビジネス・フレンド

 男性顔負けの能力と意欲にあふれた女性なのになぜか伸びずに終わってしまう人がいます。ビジネス社会ではいずこも圧倒的に男性社会です。原因のひとつは取引相手に「素敵な女性と思われたい」あまりにはっきり主張ができず、男性の強引さにいつも屈してしまう人、あるいは奇妙に甘えてみる人。私自身はたとえ「嫌な女と思われても仕事のできる女と評価されれば良い」という持論で生き抜いてきました。素敵な女性なんて個々のものさしが違うわけですし、目の前にいる男性は結婚相手でもボーイフレンドでもなく取引先なのだから遠慮せずに仕事師ぶりを発揮したらよいのです。20代では可愛げのない女でもスキルと経験を重ねるにつれ、実に錬れた素敵な女性になること間違いなしです。
 もうひとつの原因は男女関係で墓穴を掘る人です。いくつも取引先を持っていて公平に対処しなければいけない立場の女性がある取引先の男性と一緒に暮らすようになり、取引も癒着関係におちいったケース。彼女の会社が他の取引先から一斉に苦情を受け、彼女は去ることに。スピード出世でそのポストを得ただけに自惚れや気のゆるみがあったのかも知れません。
 別のケースで企業経営者の女性でしたが「自分に気があって親切にしてくれると誤解し」たため、相手の言いなりに多額のお金を払い、とうとう会社をたたむはめになりました。他人が冷静に見ればその男性は仕事とお金を求めて彼女の所に来たに過ぎません。仕事師に徹し切れなかったという事はそもそも彼女が経営者に向いていなかったのでしょう。彼女たちはこんな事がなかったら、ずっと私の良きビジネス・フレンドでい続けただろうと思うだけにとても残念です。
 ビジネス・フレンド、私の場合はビジネスを通じた友人で単なる取引先や仕事仲間の総称ではありません。気軽に仕事上の相談をしあったり、情報を交換できる相手のことです。これは双方向のおつきあいですので、いつもお世話になりっ放し、逆にお世話ばかりしている相手はビジネス・フレンドとは言いません。私の仕事柄、相手は経営者、管理職に限定されますので日本では女性のビジネス・フレンドは数えるほどしかなく、また日本の男性も女性の対等な進出が進んでいる業界の方でないと抵抗があるらしくなかなかビジネス・フレンドになってもらえません。
 という訳で私の場合はビジネス・フレンドが海外に勢いよく広がっていきました。もともと元気をくれる人、インスパイアしてくれる人が好きですので、違う分野で自分と異なる人生観なり経験を積んだ人の意見が非常に参考になります。そういう意味でも外国人ビジネスパーソンはうってつけだったわけです。
 ビジネス・フレンドのありがたさは一定の距離をキープしたまま、個人生活には割りこんでこない存在であることです。従ってささいな感情のもつれでけんかをすることもないし、しばらく放置しておいても何の文句も言われない。実はビジネス、特に金銭の授受を伴う相手というのは非常に本性がわかるもので、個人的な友人よりは本質を見抜いている場合もあります。自分の良き理解者として、自分の世界を広げてくれる存在として私のような一人企業の大きな支えであり、仕事を続ける女性のみが持てる男性(もちろん女性もいますが比率は極端に少ない)の友人たちの自慢のネットワークです。
河口容子

[297]国際化できない悲しい日本

先週号でも触れましたが、私の所にはいまだに知人からオファーが来続けています。私のクライアントは 8割以上が海外の政府機関か民間企業です。政府機関の場合は中小企業の支援事業関連が多いので日本と何らかの形でビジネスをしたい外国の中小企業が増加しているということでしょう。それに対応できる日本の窓口が圧倒的に不足しているような気がします。この背景には国際化できない悲しい日本の現実があります。
まずは英語力のなさです。私自身は「自分にできること、できないこと」をクライアントにまず明確に言うタイプですので、できない場合はその分野の専門家を自分のネットワークを通じて探し出します。相手は中小企業なのでできるだけコストを押さえようとすれば、専門家でかつ英語が話せる方という条件になります。大企業の社員ならいくらでもいると思いますが、自由に動ける中小企業の経営者あるいはフリーランスの方となると該当者がほとんどいなくなってしまいます。中国でもベトナムでも年々英語のできる専門家はすさまじい勢いで増えています。専門分野を持ち、それが英語でできればビジネス・チャンスは確実にふえるので実に残念に思います。
次に集団分業主義の効率の悪さ。たとえば市場調査などの場合、大手の調査・コンサルタント会社に依頼すれば営業の窓口と調査の担当者は別、日本語でできた報告書を翻訳会社に外注して英訳するというのが普通です。ところが私の場合は自分で調査し、英語で最初から報告書を書きますので、時間もコストも圧倒的に少なくてすみます。輸出の船積みにしても同じで、総合商社では商談、伝票、船の手配、船積書類作成、と何人もの手を経てやっていますが、私はすべて一人でやり、全責任を負います。こんな効率の良いことはありません。
そして、プロといいながらプロではない人たちの多さ。会社員の頃、米国から弁護士が来るので関税法に関する文書を英訳しなければならない事がありました。急なことだったので土日に自宅でやる事にしました。当時の私は仕事の終わるのが夜の11時から12時で食事も夜中に 1食という生活でしたので、上司が心配して、外注したらどうか言ってくれました。会社でよく依頼する翻訳屋さんに電話をすると責任者らしい男性が出て来て、「自分は英語の事はわからない、専門的な翻訳を出来る者がいるかどうかは週末だから無理、英文和訳なら良いが和文英訳の場合責任は持てない。」などと偉そうに言いました。私は二度とその会社は使わないことを心に決め、土曜日に自分でやってみたところ所要時間 1時間ほど。おかげで米国の弁護士には気に入られ、社内でも関税法を英語できる大家となってしまったのです。何事も自分でやってみるものです。
私とは異なる専門のコンサルタントに見積を依頼した時のことです。まずは見積の仕方がわからないと言われ、唖然としながらも懇切丁寧に教えました。出て来た見積には知人と一緒に業務を遂行すると書いてあります。ご本人に業務遂行能力がないのか、下請けに出すのかわかりませんが、外部の人を入れるかどうかは機密保持の問題やその人が適正かどうかの判断も必要です。先に外部の人を入れても良いかたずね、またその人の略歴も知らせるのが常識でしょう。
こんな方もありました。海外からの要件に対し、こんなやり方ではできないと自分の意見をメールに書きたて 2~3日経過後、資料を入手できたから作業を始められる状態にあるので指示してください、と言い出しました。理由もなく最初の話とは 180度の展開です。私からは「依頼事項に対する見積とその他提案があればお願いします」と文書でお知らせした反応がこれで、見積は結局出てきませんでした。
これらのお二方はいずれも私よりかなり年上の男性です。国際的にはプロとしてとても通用しないでしょう。日本のビジネス社会は男性には甘い、あるいは層が厚いと言うべきでしょうか。もし女性でこんな人たちだったらとっくに淘汰されているに違いないからです。
河口容子