[290]禍転じて

 ミャンマーのサイクロン、四川大地震とアジアでは莫大な犠牲者、被災者が出ました。ミャンマーは軍事政権で救援活動が遅々として進まず、中国も賄賂絡みの「おから工事」による建物倒壊、災害救助に関する経験不足など、時間が経過するうちに 2次、 3次と災害が拡大する危険性があります。2004年 4月 1日号「アジアの憂鬱」というテーマでアジアのかかえる諸問題について取り上げましたが、アジアには天災、人災が多く、それも日本人の想像を超える規模や内容のものがあり、ビジネス展開にはリスク・マネジメントが重要です。
 四川省の隣の貴州省で少数民族の保護活動をしている香港のビジネス・パートナーに大丈夫だったかとたずねると「ありがとう。おかげさまで僕たちの地域は何の被害もなかったよ。心配してくれて本当にありがとう。」日本も異常気象で夏日と思えば冬に逆戻りした事や小さな地震が頻発していることを話すと「エルニーニョのせいだよ。」最後には「ともかく地球サンが怒らないように環境に気遣わないとだめですね。」というような会話になりました。
 2007年11月 1日号「はったりをめぐって」に出てくる香港のクライアントK氏も中国本土の主要都市でビジネス展開をしていますのでビジネス関係に支障が出ていないかたずねると、よくぞ聞いてくれたばかりと「ありがとう。実は甥っ子が成都に住んでいるんだけれど無事だったよ。ところでL先生(私のビジネス・パートナーのこと)の所は大丈夫だろうか。」「先ほど確認を取りましたが何の被害もないようですよ。」
 幸い、日本に住んでいる中国人の知人たちの周辺にも被害はなかったようです。ご本人が無事の確率が高くても関係者やビジネスに被害が出ていることもありますので、何か起こればまずは様子を聞くことにしていますが、とても感謝して下さるのでこちらも暖かい気持ちに包まれます。知人の消息を確認するのに 2ケ月かかった2007年 2月 8日号「続 マヨンの麓からの手紙~希望~」は私の人生でも忘れられないひとこまでした。
 今回の地震で不思議に思ったことがあります。胡錦濤国家主席の来日には「皇室」「パンダ」「ピンポン」「奈良(遣唐使の朝貢)」とあらゆる外交手段が駆使され、しばらく険悪だった日中関係におだやかな空気が流れ始めました。もちろん中国のメディアは連日この様子を報道していました。胡主席の帰国後ほどなく地震が起こり、日本政府や民間企業は早々に援助の名乗りをあげました。そして日本の救助隊のたった60人の活動が「反日」の嵐を「感謝と感動」に変えたのです。この絶妙なタイミングはまさに神の仕業としか思えません。
 そもそも「反日運動家」のほとんどは知日家であろうはずもなく、不平不満の矛先を日本に向けてストレスを解消していたきらいもあります。また、急成長した中国の驕りは天災地変という自然の力に叩きのめされ、やっと他人への感謝や尊敬を思い出したとも言えましょう。ミャンマーもこの禍がきっかけとなり民主化への道を歩んでくれることを願っています。
 最後に犠牲者のかたがたのご冥福と被災者のかたがたに 1日も早く笑顔が戻ることをお祈りします。
河口容子
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[261]はったりをめぐって
[224]続 マヨンからの手紙~希望~
[97]反日感情
[79]アジアの憂鬱
常識ぽてち[1067]ミャンマーという国

[289]Thank Youレター

 先週先々週とベトナム出張の話を書かせていただきましたが、帰国後真っ先にする仕事が「Thank Youレター」を書くことです。Thank Youレターはお礼状のことですが、日本語でお礼状と言うと何か形式ばった特別なイメージがありますのでここではあえて Thank Youレターと呼ばせていただきます。現地でお世話になった方々には無事帰国したこと、滞在中の配慮やもてなしに関するお礼を述べます。また、日本から同行したクライアントに対しても出張中お世話になったお礼を書きます。そして、印象に残った事、説明しそびれた事、懸念事項があれば書き添えます。相手が語学力に問題があり、十分理解してくれたか不安な場合はポイントを再度さりげなく書いておくこともあります。ここまですれば、単なる儀礼を越えて自分にとっても出張のまとめとなります。
 感動した Thank Youレターがあります。会社員の頃、ニューヨーク、オレゴン州ポートランド、ロサンゼルスと2週間ほどかけて出張しました。帰国後PCを開けるとポートランドで面談した取引先のVIPからのThank Youレターが入っていました。「そろそろ日本に帰ってほっとした頃だと思います。先日はご訪問いただき、また、いろいろ話し合うことができありがとうございました。あなたが下さったチョコレートのおかげで私もちょっぴりスイートな人間になったかも知れません。来月日本へ出張することになりましたのでまたお目にかかれるのを楽しみにしています。」というような内容だった記憶がします。通常は目下から目上に Thank Youと言うべきですが、雲の上のような方から先にいただけるのは「高い評価」を示唆するものであり、またあたかも「お帰りなさい」とでも言ってくれているかのようなタイミングを計っての配慮に思わず頭が下がり、出張の疲れも吹き飛びました。
実はこの取引先は表敬訪問を一切受け付けてくれないので有名です。私としては大切な取引先でもあり、またこの VIPは私を初めての国際会議にデビューさせてくださった恩人でもあるので現地に行った以上素通りはできません。どうしてもお礼を言いたいという念が通じたのか、異例の面会がかない、それも大変温かなもてなしを受けました。感謝の心は連鎖するという良い例だと思います。
 香港のビジネス・パートナーが日本への出張から帰った頃にも「無事に帰国されたことと思います。」で始まる Thank Youレターを出します。すると「滞在中はいろいろありがとうございました。慌しくて大変だったでしょう。しばらくゆっくり休んでくださいね。」というような返事が来、気心が知れている仲であっても、お互いに更に快く次の仕事へと移って行けます。こういうメリハリもThank Youレターの効用です。
 特別な配慮をしていただいた時、いただきものをした時、ごちそうになった時、まずはThank You レターです。相手に感謝する、これはビジネスでも基本中の基本です。タイムリーに、そしてその人らしい言葉で Thank Youレターをいただくと知性、品性、感性を感じます。電話ではだめか、という方もあるでしょうが、相手が忙しい時に電話をしてもかえって迷惑な場合もありますし、目上の方にいきなり電話をしてお礼を言いにくい場合もあります。今はメールという便利なツールがありますので、私はビジネスでのThank You レターはほとんどメールで出すことにしています。最低 3-5行ですむことですから、これを面倒だなどと言うようであればとてもビジネスなんてできはしません。
  Thank Youレターはお詫びやクレームを書くよりははるかに楽なはずです。それなのにきちんと書ける人は案外少ない気がします。感謝を表すことは自分も前向きな気持ちになれますし、もちろん相手をも幸せな気分にさせます。ビジネスや人間関係に行きづまりを感じたら素直に感謝を表現できる自分をまず取り戻すことをおすすめします。
河口容子
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