[276]春の雪、南への回帰

 中国は経済活動に支障が出るほどの何年ぶりかの大雪。中国人にとって待ちに待った旧正月(春節)を目前にしてのまさに春の雪です。香港のビジネスパートナーは私財を投じて貴州省の少数民族の保護活動にこの1年ばかり専念していますが、その貴州省でも10数人死者が出たとのニュースを聞き、心配になりました。何せ、その少数民族の地域は形状は違うものの白川郷と奈良の神社仏閣を足したような建物が点在する山間の集落で、省都の貴陽から車で 6-7時間と聞いていたからです。IP電話のチャットで「大雪との報道ですが、そちらに被害はありませんか?」とたずねたところ「心配してくれてありがとう。2週間、交通機関も通信も遮断されたよ。僕は大丈夫だけれどスタッフや住民たちが心配。」との事でした。
 一方、ベトナムにある韓国系工場の韓国人担当者はベトナムのテト(旧正月)の間は韓国のテグ市にいるからと連絡をくれました。緊急用にと携帯電話の番号を教えてくれましたが、私のIP電話のIDを教え、これなら電話も無料だし、チャットもできるからと言うと、すぐ用意ができたのか先方から「こんにちは」とチャットが入って来ました。「こんにちは。そちらは寒いのですか?」と私。「ええ、雪が降っています。」温暖化という言葉が嘘のように今年の北東アジアは雪が多いようです。
 こんな会話をやり取りしてから出かけたのはアセアン諸国のギフトグッズの商談会です。墨絵色の冬景色の街から熱帯の色合いの中に飛び込むとそこはもう南の国で思わず笑みがこぼれます。ここ数年、チープでかわいいというアジア雑貨ブームが一段落したかの感がありましたが、商談会場にはまた熱気が戻ってきました。カンボジアやラオスの布ものなど、決して安くはない商品が人気を集めていました。タイ、ベトナムにしてもデザイン、品質ともにブラッシュアップされた商品たちが並んでいました。各国の経済成長とともになぜかアジアくささが抜け、旧宗主国のヨーロッパ人好みの品の良さ、ほどよくコントロールされたデザインと色あいを持つものがふえたようです。日本の業者も中国製一辺倒からより付加価値を求めて、また文化や歴史の香る商品を求めてアセアンの商品へ戻って来ているようです。思えば、自然素材を使い手で作るものは「究極のエコ商品」でもあります。
 懐かしい出会いはブルネイの女性起業家です。1年ぶりくらいでしょうか。彼女とはブルネイで2度、東京で3度会ったことになりますが、いつも真面目な話をしているにもかかわらず漫才コンビのようになってしまい、思わず周囲の人たちに爆笑されてしまうことがあります。「誰か私たちの写真を撮って」という彼女に「僕が」「私が」と各国のブースからかけ寄ってきてくれるのはアセアンならではの光景です。彼女のオリジナルの刺繍は絶妙な色バランスといい、特にイスラム的な抽象柄のデザインの良さにいつも思わず見とれるのですが、それもそのはず、日本のグッドデザイン賞の受賞者でもあるのです。帰国後、彼女の参考にと思い、いろいろアドバイスのメールを送ったところ、「本来はアドバイスをいただいた事のそれぞれをチェックしてからお返事をすべきなのでしょうが、うれしくてたまらないので先にお礼を書きます。」とすぐ返事が来ました。刺繍の天才、猛烈な勉強家でもありますが、この天真爛漫なところも彼女の魅力のひとつです。
河口容子
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[275]輸入依存と基本動作

 私が勤務していた総合商社では社内の報告・連絡・相談・決裁のルール、取引先に接する方法、与信管理やクレームの処理など基礎的なものは「基本動作」と呼ばれ、この基本動作が自然にできるようになって初めて「一人前」でした。この基本動作は経験を重ねなければ習得できません。また、経験豊富な上司や先輩が部下や後輩にノウハウを伝えていくことも非常に大切です。
 日本中を恐怖に陥れた「農薬入り餃子」事件ですが、日本の行政、輸入者も含め危機意識がなく、基本動作がお粗末な気がします。このニュースを聞いた時、餃子の中味に入っている野菜の残留農薬で重篤な症状に陥る確率はまず低いと直感しました。1つの餃子に入っている野菜の量は微々たるものだからです。また、私自身途上国のさまざまな工場を訪問したことがありますが、大手の工場は最新の設備を持ち、衛生基準のマニュアルもきちんと整備されており、日本の古い工場が恥ずかしいほどです。また、きちんとした工場でない限り日本の大手メーカーは契約を結ばないはずです。要はルール通り製造されていれば農薬の混入は考えにくいのです。餃子そのものだけではなく、梱包剤の製造と保管に問題がなかったか調べたのでしょうか。
 当初私が疑ったのは故意の犯罪です。中国のメーカーの労使関係のトラブルから中国側で何者かが嫌がらせにメタミドホスを注入したのではないかという説もありますが、日本で誰かが注入した可能性が絶対ないとは言えません。メタミドホスは日本では流通していないというのを理由とすれば、オウムによるサリン事件もあり得なかったことになります。残念ながら日本には毒物による事件が多く、古くは森永ヒ素ミルク事件、江崎グリコ・丸大ハム・森永乳業・ハウス食品を標的とした毒物入り製品による脅迫事件などもありました。製造元を調査すると同時にこうした殺人未遂事件としての可能性を最初からどうしてもっと精査しないのか不思議です。
 中国産のほうれん草の残留農薬報道以来、私自身は生鮮野菜は国産しか買いません。冷凍食品も原産国を全部チェックします。ただ、中国製と書いてあっても日本の大手ブランドの製品なら信じて買うのが消費者心理ではないでしょうか。ブランドのブランドたるゆえんは「品質の良さと安全性」にあります。中国の提携工場に任せきりではなく、もっとキメ細やかなチェック体制があっても良いと思います。そうでなければ、単に利益追求、それも中国との経済格差をそっくりそのまま自社の利益としているだけに過ぎません。これは冷凍食品のみならず他の中国製品にもいえることです。
 私の周辺では「中国で作らせる」「中国に発注してあげる」というような表現を当たり前のように使う日本のビジネスパースンたちがいますが、どうして「中国で作ってもらう」「中国から買わせていただく」という発想はないのでしょう。二極分化の時代に入り、年収 200万円以下の勤労者が増えても、貯蓄ゼロの世帯が増えても何とか暮らしていけるのは安価な中国製品のおかげもあります。
 「いったい私たちの暮らしにはどのくらい輸入製品があるのかしら」という呑気な中年主婦の方がいらっしゃいました。私の答えは「一般家庭なら90%でしょう。それどころか輸入しなければ電気もガスも使えませんよ。あなたの自動車も走りませんよ。」日々の生活をほとんど輸入に委ねるということは安全保障の面からは大きなリスクであるという認識を日本人全体が持つべきだと思います。
(本原稿は2008年2月4日午前までの情報を元に書かれています。)
河口容子
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