[264]日本が8位の理由

 10月末に「世界経済フォーラム」から世界競争力ランキングが発表されました。日本は昨年の 5位から 8位に転落というのは各紙が報道している通りです。これは世界の 131の国と地域の統計を基に要素ごとに指標を出し、その総合結果なのであまり一喜一憂することはないと思います。重要なのはどうして 8位なのかという要素ごとのランキングを見て、日本がどういう国であるかという再認識をすることでしょう。
 「制度」について日本は24位で 3位シンガポール、12位香港、20位マレーシアより下位。「インフラ」は 3位のシンガポール、 5位の香港、 9位が日本です。「マクロ経済の安定」については日本は97位で51位ベトナム、77位フィリピン、89位インドネシア以下ということになります。この要素を構成する物価の安定では 1位、預貸金利の格差では 2位、財政赤字では何と 120位でほとんど世界の最低。これをどのくらいの日本人が認識していることでしょうか。「保健・初等教育」でも意外や意外23位で、 6位台湾、19位シンガポールより下です。
 「高等教育・研修」では22位で 4位台湾、 6位韓国、16位シンガポールにこれまた遅れを取っています。「市場効率」では18位で 1位香港、 2位シンガポール、16位韓国、17位台湾です。「労働市場」については10位、 2位シンガポール、 4位香港より下で11位がタイなのでタイ並みということでしょう。「金融市場の洗練度」では日本は36位、 1位香港、 3位シンガポール、19位マレーシア、27位韓国。37位がインドなのでこれまたインド並みと思えば良いのでしょう。自慢の「技術力」でもただの20位で 6位香港、12位シンガポール、15位台湾に遅れています。「市場規模」は米国、中国、インドに次いで4位ですが、貧しい国でも莫大な人口がいれば上位に行きます。逆に豊かな国でも小国の場合は分が悪い要素です。
 「ビジネスの洗練度」ではドイツ、スイスに次ぎ 3位で不思議な気もしますが、私自身が日々感じることとして、組織力の強さ、約束事がきちんと履行されること、取引先との信頼関係に基く相互発展、などは外国とくらべ優れている点だと思います。「発明」では米国、スイス、フィンランドに次いで日本は 4位でした。
 上記に挙げた「」の中の要素を構成する細目が更にありますが、「マクロ経済の安定」が97位にもかかわらずよく総合で 8位になったものだと思います。それと同時にいかにアジアの兄弟たちが力をつけてきているかがわかります。私がよく訪れる中国や東南アジアの国々で相手を小馬鹿にしたような態度を取っている日本人をしばしば見かけますが、時代錯誤もいいところです。
 日本ではその日、その日を贅沢できなくてもまったりと暮らせれば良いと思う人々が増えて来ました。お金や出世ばかりを追いかけるより「足るを知る」「小さな幸せに感謝する」ことは人間として立派な事ですが、その一方で向上心を忘れたり、何事も安易なほうに流れたりする傾向も見てとれます。「たるみ」なのか「あきらめ」なのかわかりませんが、優しいだけではなく芯はタフな日本人がもっとふえてほしいと思う今日このごろです。
河口容子
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[263]シンガポール人と味わう銀座の秋

 2007年 7月 5日号「アセアン発の美と健康」に登場したシンガポールのクライアントが今度は食品見本市に出展するために来日しました。東京は秋たけなわ、外国人にとってべストシーズンです。今回は男性と女性の管理職の来日で、前回時間の都合でお流れとなってしまった銀座でのディナーが実現しました。もともとはフランス料理の予定だったのですが、女性の管理職のために和食のお店も探し、来日前に両方のお店のホームページを見せて選んでもらうこととしました。
 女性の管理職Mさんとは初対面です。私はビジネスウーマンと初めて会う時はなるべく色を控えめにしたスーツで相手を華やかに見せるよう心がけています。逆に男性とご一緒するときは「ドブネズミ・ルックのおばさん」はお嫌だと思うので少し華やかな色やアクセサリーを身につけるようにしています。相手の業種によっても着るものは変えるのが会社員時代からの習慣です。私にとって商談時の服装は自分のために着るのではなく、相手のために着るのです。
 この日のMさんの装いは白のスーツにミントグリーンと白の細いボーダーのカットソーが長身に映え、南国の人らしいさわやかさにあふれていました。一方、男性管理職のPさんは2007年 7月12日号の「ギフトは心の鏡」で触れたネクタイをきちんとしめてきてくれました。気配り名人の彼のことゆえ、おそらく差し上げたネクタイをしめて来るだろうと予想しましたが、気に入ってくれたのか、もうかなりくたびれた感じです。
 行先はフランス料理に落ち着いたのですが、Mさんによれば「シンガポールには日本料理屋がたくさんあってお値段も高くはないけれど、フランス料理はとても高くフォーマルすぎてあまり行かないから。」というのが理由のようです。Mさんに日本に来たことがあるのかとたずねたところ、「10年前に来ました。」「それではまだ赤ちゃんだったのではないですか」と冗談で言う私に「いくら何でもそんな事はないですよ。」とうれしそうにニヤリ。「東京はとても好きです。きれいですもの。」「きれいって何がですか?」「いろいろな建物があるでしょう?シンガポールなんてオフィス・ビルはみんな同じよ。」彼女が建築に興味があって良かったと内心ほっとしました。実はこのレストランは内装でも有名なのです。「東京の人は洋服のコーディネートが上手ですよね。シンガポール人なんてその辺にあるものを適当に着ているだけですもの。」「それはきっと暑いからでしょう?」「エアコンの中では結構きちんと着ようと思えば着れるのに怠け者よ。」
 彼女はお土産に傘を買って帰るのだと言います。「私の香港のビジネス・パートナーはお金持ちですが、奥さんに2本も日本の傘を買って帰りました。デザイナー・ブランドの傘がこんなに揃っているのは日本しかありませんよ。」「だから高いのね。今日デパートで見たら私のほしいのは2万円くらいしたのでもうびっくりしました。でも買うわ。」
 その後、話はPさんの次の出張先のニューヨークへと移り、世界の大都市の物価の比較になりました。秋の夜長をこうしてまだ若い国際人たちと過ごすのは楽しくいくら時間があっても足りません。「今度シンガポールに来られたときはいつも僕たちがお世話になっているお返しをしますよ。シンガポールじゅうの良い所を全部見せてさしあげますから。」とPさん。彼らの企業は 130年の歴史と数々の賞を誇るシンガポールの上場企業です。従業員は1000人以上おり、多国籍にビジネスを展開しています。彼らのたゆまぬ努力、人への優しさ、礼儀正しさ、思えばこれらは日本人の長所であったはずです。国際競争力ランキングで日本がシンガポールに負けるのも仕方ないとふと思えた帰り道でした。
河口容子
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