[254]在日ベトナム人の目

 2007年 8月30日号に出てくるベトナム人キャリアウーマン Nさんの今回の日本出張は長く、東京―千葉―大阪―東京と暑い中を男性の部下を連れての八面六臂の活躍でした。最後の東京でギフトショーに行くというので、会場で待ち合わせて一緒にお昼を食べることにしました。今度は私がごちそうする番だと言うと、「日本に住んでいるベトナム人女性も一緒に行くのでいいでしょうか?彼女は元ベトナム大使館の商務参事官の奥さんで、いろいろお世話になっています。」と彼女。どなたかしら?と思って待ち合わせ場所に行くと、ハノイ市駐日代表部代表の Vさんでした。顔なじみです。世の中は狭いと言うべきか、日越関係に係る層がまだ薄いと言うべきか。
  Vさんは 4年日本に住んでおり、お子さんも日本の学校に通っています。もちろん日本語にもまったく不自由しません。彼女に日本についてどう思うかたずねてみました。まず、日本人は礼儀正しすぎるのか、形式主義におちいりがち。「すみません、すみません、と言う割には笑っていてちっとも悪いと思っていない。」「ありがとう、と何度も言うがただの形式に過ぎないのではないかと思うことがある。」と鋭い指摘です。確かにこの手の口先三寸、心のないビジネスパースンは日本には山ほどおり、おまけに口の巧さを自負しているふしもあったりで、もともと歯の浮くようなお世辞は言えず、駆け引きの嫌いな私は怒り炸裂することもしばしばです。
彼女は続けます。「ベトナム人は大袈裟にありがとうと言わないけれどここぞと思う時はきちんとお返しをします。」確かによく「相手があなただからやってあげるのであって、他の人ならしない。」と言うせりふを耳にしますが、私はそんな事を言う人は信用できません。本当にそうならそれは口にせずとも当人どうしが十分わかっているからです。 Nさんも知り合って 3年目ですが、まさにそういう仲です。
Vさん、次は食物について。「日本は何でも冷凍だから料理を作ってもおいしくないです。ベトナムではみんな生だからおいしいです。」確かに肉でも魚でも冷凍保存したのを解凍して売っているケースは珍しくありません。消化器系統の弱い私は食べ物に非常に敏感です。実は外食をした場合、アセアン諸国より日本のほうが具合が悪くなる確率が高いのです。おそらく、保存料や化学調味料、使い古した油のせいだと私は思っています。
 最後にお決まりの質問「なぜ日本人はメイドを雇わないの?ベトナムならちょっとした家ならメイドを雇うので奥さんはすることがないから仕事に行きます。」これぞ香港やアセアン諸国で耳にタコができるほど聞かされる質問です。人件費が高い、メイドのなり手が少ない、という理由は皆知っています。私が思うに戦後の日本では皆平等となり、個人に雇用されるのは上下関係がつくようでプライドが許さないから報酬が高くてもなり手が少ないのだと思います。また、 Vさんの言うように日本は形式主義で人間関係もホンネとタテマエは違う。一見、仲良さそうでも、陰では悪口を言われたり、足を引っ張られたりしています。あるいはおとなしくて礼儀正しい人が殺人犯だったりします。最近は家族内でも危険なのに他人まで入れたらどうなるのかという不安もあります。
 「ベトナムも発展するのはいいことだけれど、何か毎日追い立てられているようで落ち着きません。不便でも昔ののんびりした社会を懐かしく思うことがあります。」得るものがあれば失うものがあるのは世の常ですが、日本は失ったものが多すぎて思い出しもできないような状態なのではないかとふと思いました。
河口容子
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 今年は恐ろしいくらいの暑さでした。温暖化どころか熱帯化、地球の怒りや悲鳴が聞こえるような気がします。先週号で触れたベトナム女性と無事東京で再会しましたが、「東京はベトナムより暑いです。信じられません。」を連発。アセアン諸国でもっと高い気温、それも長袖のスーツというビジネスフォーマル姿で何度も体験していますが、確かに東京の暑さは人工的な不快きわまりない暑さと言えます。
 先日、北極の氷が想像以上に溶けているというニュースを耳にしました。なぜ南極は溶けないのかというと北極は海、南極は大陸だからだそうです。ちなみに北極の氷冠は3m、南極の氷冠は3,000m。このまま温暖化が加速すれば、海に沈む陸地も増え、いつか南極の氷も溶けて大地が顔を現すかも知れません。生態系がまったく変わってしまうことは明らかです。
 最近気づいたことがあります。夏場、窓を開けている家が近所にほとんどないのです。住人たちはエアコンに 1日中ひたっているようです。庭先に小さな貸アパートを所有していますが、室外機が24時間鳴っているところもあります。私自身はエアコンを使いませんので、自室にもオフィスにもエアコンの機械すらありません。扇風機も使いません。記録的な猛暑に生まれましたが、当時はエアコンなどどこにもありませんでした。地球上にはもっと暑い国々があり、エアコンなど普及していなくても、皆生きています。夏は暑いのが当たり前、その中で自然の恵みに感謝し、ささやかな工夫をして涼を取るのが人間の智恵や粋ではないでしょうか。
 とはいえ、私のデスクまわりは日当たりが良すぎるので、日中は例年37度前後、今年は40度に何度かなりました。机にのせている腕から汗が落ちて机が水びたしになったのにはびっくりしました。こんな按配ですから、炎天下といえど外出するのはまったく苦になりません。母がひどい乗り物酔いで車に乗れないため、車のある生活というのを生まれてからしたことがありません。外出は徒歩、自転車、電車です。半径 5キロまでは日常の買い物エリアですが、すべて徒歩か自転車です。もちろんマイバッグ持参です。
 これだけでもかなりのエコライフ(エコロジーとエコノミーの両方)だと思いますが、もうひとつ自慢があります。紙はすべて裏まで使うことです。外部へ提出するもの以外はすべて紙を裏まで利用します。広告でもダイレクトメールでも裏が白ければすべて使います。会社のファイルには、ときどき広告のピンクやブルーの紙が混じっています。日本人は「何もそこまで」と思うかも知れませんが、私のおつきあいしているアジアのお金持ちたちは揃って皆そうしています。
 戦後の日本の経済成長とともに「消費は美徳」そして「現在を楽しむ」という価値観に変わってきた気がしますが、だらだら無駄使いをするのと必要なもの、本当に好きなものにお金を使うのはまったく違います。だらだら無駄使いをするといくらお金があっても足らず、忍耐のできない怠惰な自分中心の人間を作りだします。また、お金だけが価値観の人間を増殖させ、金銭をめぐる事件が後をたたなくなります。地球の温暖化を機に日本人は考え直すことがたくさんありそうです。
河口容子
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