[248]パスポートの話

 総合商社に入社した時に「パスポートは商社マンにとって必需品、有効期限が切れていて出張できないなどということがないように」と教わった記憶があります。当時は米国への入国もビザが必要でこれは 5年間有効でしたが、必ずしもパスポートの有効期限とは一致せず、パスポートは有効でも米国へのビザが期限切れであることに直前まで気づかず、急遽代わりの人が出張したという笑い話も聞いたことがあります。また、海外出張が頻繁にある人は、パスポートが休んでいる間(つまり絶対出張がなさそうな期間)に更新をするというのが常識でした。
 さてさて、私もいよいよ10年パスポートの有効期限が来年の 1月上旬となり、更新の手続きをしました。国によっては有効期限が半年以上ないと入国できない所もありますので、頻繁に海外に行かれる方は「あと半年」という時期を目処に上述の「パスポートが休んでいる間」に更新をされておくことをおすすめします。いったん期限が切れてしまうと申請に必要な書類を初回と同じようにそろえねばならず、申請や受領のために出向く時間も取りづらいほど忙しい方はなおのこと早め早めに準備が必要です。
 更新は有効期限が 1年未満になった場合、余白がない場合、パスポートが損傷している場合、IC旅券に切り替えたい場合は今持っているパスポートに必要書類を添えていつでも申請できます。
 2006年 3月20日からIC旅券の申請が開始されており、私も初めてIC旅券を今回手にしました。IC旅券とは偽造をより困難にするために本人の確認情報をICチップにおさめたものとアンテナが入った板紙のページがパスポートの真ん中にあります。パスポートの最初の顔写真のページが改ざんされてもICチップの情報で照合ができる仕組みとなっています。以前のパスポートよりちょっぴり厚くて硬くなり、ICチップの保護のため保管場所にも注意が必要になりました。
 ICAO(国際民間航空機期間)の勧告に基き、顔写真の基準も変わりました。頭のてっぺんから顎先までが34ミリ±2で頭の上の余白は4±2、 顔の中心が写真の真ん中に入っていなければなりません。以前に比べ写真全体に占める顔の比率がかなり大きくなりました。これがパスポートに転写されるとさらに顔は拡大され、首もほんの少ししか出ません。真面目な表情の真正面の顔でしかもほとんど顔のみの写真というのは「実物より美人に写っていないと気がすまない」女性たちにとっては頭の痛い問題です。
 元来、どんな表情で写っていようがあまり気にしない私ですので、申請に行った都庁内の証明写真コーナーで撮影をしました。簡易スタジオでスタッフが撮ってくれ、数分で出来上がります。万が一目をつぶってしまっても撮り直してくれるので安心です。自分はまっすぐに座っているつもりでも「左の肩先が 2センチくらい前に出ている」「顔をもう少し右に向けて」などと位置を修正されました。ふだんより入念にメイクをしていったのですが、フラッシュで色はほとんど飛んでしまいます。色よりはむしろ顔の骨格がはっきりわかる感じです。
 手元に残っている30年間以上の証明書写真の顔はなぜかいつも暗く寂しげな顔です。ふだんは天真爛漫、おもしろい、とよく他人には言われるのになぜそんな顔になるのか不思議でした。笑顔やしぐさでは隠しきれない何かが証明写真には現れているような気がしていました。ところが、今回初めて晴れやかな表情に撮れ、そのせいか10年前のパスポートの写真よりはるかに若いのです。年を重ねるにつれ悲しい顔にだけはなりたくないというのが人生の目標でもあったので私にとっては大きな喜びでもありました。10年後のパスポートの写真も明るい表情ができるよう充実した毎日を積み重ねながら過ごしたいと思います。
河口容子
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[247]一気に脚光を浴び始めた中部ベトナム

 今年の秋もベトナムで講演を行なう予定です。幸い今年はベトナムに関するセミナーが日本で多く開かれ、じっくり情報収集や分析を行ないながら構想を練ることができそうです。先日は中部ベトナムへの投資促進セミナーがありました。ベトナムは北のハノイと南のホーチミンシティを中心に商工業が発達しており、中部というとダナン、フエ、ホイアン、ニャチャンといった観光地の情報が断片的にあるものの、ビジネス環境については限られており、今年の2月にクライアントの依頼によりベトナムに 100ケ所以上ある工業団地の調査をしましたが中部となるとほとんど詳細情報がなくお手あげ状態でした。
 ベトナム政府の産業政策の基本は各地の特性を生かしながら地域格差の出ない経済発展を考慮しており、ここへ来て一気に中部ベトナムへの投資を促進するという事は北部、南部がすでにバブルに差し掛かっていることの裏返しのようにも思えます。また、最大の目玉は石油ガス公社による初の石油精製所が中部のズンクワットに建設されることです。ベトナムは産油国ですが、いままで精製をシンガポールに依存していました。この精製所が2009年に完成すれば近い将来国内で石油ガス、ナフサなどを生産できるようになり、石油化学関連プロジェクトが次々と発達する基盤ができます。
 拡大メコン川流域のインフラ整備プロジェクトのひとつである東西回廊の起点がダナンであり、この回廊はラオス、タイ、ミャンマーを結ぶことからこの地域全体の物流拠点としての発展も期待されます。地下資源や農業分野にも可能性を秘め、何といっても最低賃金が月約45米ドルという安さも魅力です。
 しかしながら、現在の日本企業の投資案件のうち中部へは全体のたった6%(件数ベース)にしか過ぎず、多くが製造業です。一方、米国、韓国など外国企業はリゾート、観光・娯楽関連産業への投資が目立ちます。ホアクオン新工業団地(500ha) の開発投資に深セン市の開発区が関心を示しているそうで、「ぜひ中国よりも日本に投資をお願いしたい」 とセミナーの席上でベトナム側から嫌中をにおわせる発言が飛び出しました。
 外国企業は含み益狙い、コスト削減を徹底して追及しパイオニア精神を発揮するものの、日本企業はリスクを回避し、安定操業や駐在員の生活環境をまず重視する傾向にあります。そんな中で頼もしく思えるのは日本の物流会社が上記の東西経済回廊経由でハノイとバンコクを結ぶ「メコン・ランドブリッジ」を開発、7月に試走を行なうそうです。別の日本の物流会社は深センとハノイを結ぶトラックの定期便をスタートさせています。実は昨年の春、後者のハノイ支店を訪問しましたが、当時は中国―ハノイ間を試走中でそれにまつわるいろいろなお話をお聞きしました。東南アジアでよく見かける近代的なオフィスビルの一角にオフィスがあり、社旗が額縁のように掲げられていました。静止しているその旗が今にも風にはためきそうな活気を感じたと同時にベトナム人のスタッフたちはとても礼儀正しく、にこやかだったのを今でも覚えています。長らく紛争の多かったメコン川諸国をひた走る彼らのトラックはまさに平和と繁栄をもたらす使者です。
河口容子
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