[368]ぐっと身近になった中東

先々週号で取り上げた「ヨルダン イラク パレスチナ展」が無事幕を閉じました。実は新入社員の頃先輩のアシスタントとして初めて担当したのがギリシャ系レバノン人のお客さんで仕向地はサウジアラビアでした。周囲にも中東の駐在経験者が数多くいましたので一般の日本人よりは中東になじみはあると思います。また、イスラム教についてはマレーシア、インドネシア、ブルネイの仕事で慣れています。それでも初めて担当する国ばかりで快い緊張感と好奇心があふれ出しました。
初日は開会式があったのですが、要人警護の目的で金属探知機と手荷物検査を経てから会場入りです。この時間は一般公開されておらず、しかも閉ざされた空間で行うにもかかわらずこの警備というのは、やはりこの地域のかかえている問題の深さの表れでしょう。それよりも驚いたのはスピーチに立った外務省大臣政務官、何と会社員の頃の後輩ではありませんか。10年くらい前、ニューヨークへ出張した際、駐在員であった彼も含めて 4人、韓国料理屋でお昼を一緒に食べた記憶がよみがえりました。起業以来思い出すゆとりもなかった記憶です。美しいニューヨークの秋、それに比べ、開会式の東京は何と冷たい雨。
テープカットの後、レセプションがあり、レバノン人の作るアラブ料理をいただきました。見た目は美しくないけれど、お味はなかなか。辛いものが苦手な私は慣れない食事はおっかなびっくりですが大丈夫でした。アラビアンコーヒーをコンサルタント仲間が持って来てくれました。日本酒のお猪口のような小さなカップに入っています。一見、ジンジャー・ティー、紅茶のように澄んでいますし、生姜味がします。後で調べるとコーヒーを淹れた上澄み液のみ使い、カルダモン(スパイスでショウガ科)を入れ、消化を助けるのだとか。
一息入れている所へ大柄なアラブ人中年男性が現れました。「インタビューしてもいいですか?」あっという間にカメラまでセッティングされます。周囲にいた日本人たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなります。「アラブ料理をよく知っていますか?」「いいえ、初めていただきました。」「どうでしたか?」「おいしかったです。ほとんどの日本人は好むと思います。」「料理と産物とどちらに興味がありますか?」「私はコンサルタントなのでもちろん産物に興味があります。これらの産物は日本ではあまり知られていないのでこの展示会が日本人に認知してもらう機会になればと期待しています。」これが私の中東メディアへのデビューとなりました。過去に中国、ベトナム、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ブルネイのメディアに取り上げてきていただきましたが、私の場合海外クライアントが多いもの海外メディアのおかげのような気がします。
来賓の方々の順覧が終了すると展示会の一般公開です。入口に控えていた 4人のコンサルタントたちは一斉に担当する企業の所へ散って行きます。イラクは参考出展のみで企業は来日していませんが、ヨルダンとパレスチナの方々は皆堂々たる体躯です。メタボに一喜一憂する日本人が漫画のようです。顔も大作りで、「立派」の一語に尽きます。ここの来られた方々は皆お金持ちで地元の有力者と聞きましたが、かわいそうなどころか、日本人のほうがよっぽど頼りなく哀れに見えます。さて、次回はそんな彼らと語った日本の経済や文化の話を取り上げたいと思います。
河口容子

[367]日本女性と癒しグッズブーム

 相変わらず癒しグッズのブームが続いていますが日本のクライアントが20代から40代の働く女性 200名弱にアンケートを取りました。日常的に癒しを感じるものとして、動物、音楽、自然(植物や風景)、アロマ、ぬいぐるみ、人(家族や恋人)と言う順で、食事やお茶の時間という回答もありました。あまりにもささやかな、と言うべきか、正直何だか貧しいというという気もします。おそらくヨーロッパ女性なら人(家族や恋人)、快適な住空間という回答が来るような気がします。アセアン諸国でも同じような気がしますし、香港人なら仕事の後家族や友人と食事やお茶を飲みながら過ごすこと、かも知れません。
 また、20代の女性に対する「ストレス解消法」については、寝る、ごろごろする、しゃべる、入浴、買い物、ペット、という回答順です。50代なかばの私としてはあまりにも自己中心で安易な時間の過ごしかたに「ゆとりのなさ」を感じてしまいます。
 日本社会の特徴に「人間関係のむずかしさ」があります。日本人は殺人事件の大半が家族や交際相手などの一番近い相手によるものという恐るべき結果が出ているのもその証拠でしょう。また、お手伝いさんを雇いにくい風土というのも、「会社に使われても個人に使われたくない」という雇われる側のプライドや人にもよりますが「かえって気を遣う」雇い主側との感情がもつれるからでしょう。
 ビジネスにおいても昔は「和」、今は「空気を読む」。いつまでたってもイエスかノーかはっきりしませんし、論争を避けようとします。表でホンネが言えないから裏で愚痴る、あるいは遠まわしにそれとなく知らせるという文化がえんえんと続く。これらは日本の国際化をはばむ理由でもあり、上記の癒しの対象のランキングに「人」がなかなかあがって来ない理由なのでしょう。
 最近、女性側からの一方的な婚活ブームですが、ある記事によれば女性の平均年収は 291万円で男性の約半分です。しかも女性の年収のピークは30代前半でそれでも 299万円です。あとは年を重ねるごとに減って行きます。この年収では「お一人様」で世界一長寿の人生を終えるのは親からの遺産でもあてにできない限りいささか厳しいものがあります。一方、男性の独身率が伸びています。最近までは低収入の男性は結婚できないと言われていましたが、最近は高学歴、高収入の独身男性もふえています。女性向けの高額品市場がへこんでいるのに比べ、男性向けの高額品市場にスポットライトが当たっているのもそれを物語っているような気がします。
 私の世代の女性たちはほとんど結婚しており、独身でずっと仕事を続けている人たちはほとんど経営者や管理職、高等専門職です。特徴として見られるのは住空間の充実。定年を見据えてのマンションの買い替えや家のリフォームなどがよく話題となり、ギフトはインテリア用品やちょっと珍しいスキンケア化粧品だったりします。仕事がうまくいった場合は大きな癒しとなりますが、男性に自慢をすると妬まれたりいじめられたりするので、女性どうしで自慢をするという傾向にあるのが寂しい気もします。ただし、女性の社会進出に非常に制限があった時代から信念と覚悟を持って生き抜いて来たからこそ、腕を磨く事も含めライフ・プラニングもしっかりできたので若い世代より結果として恵まれたと言えるかも知れません。
河口容子
【関連記事】
[236]アジアと日本の働く女性たち
[096]感情的であること
[091]幸福な人生であるために
[045]ノーは親切、論争は親近感