[354]フランス人と盆休み

2008年 1月31日号「パリの日本人」でご紹介したコンサルタントの Nさんが日本にやって来ました。今年の春から中国でのブランド・ビジネスやフランチャイズ・ビジネスのプロジェクトの支援をお願いしており、 Nさんのビジネスパートナーのフランス女性 Aさんも別の用で来日中、一緒に会うことになりました。 Aさんはヨーロッパの高級ブランドのプロモーションのコーディネーターで時には日本文化の紹介をフランスで行っています。
私が指定した場所は私の日本のクライアントの渋谷のショールームです。健康や癒しをテーマとした雑貨のメーカーで海外の市場開拓をしている最中でついでに感想を聞いてみたいと思いました。彼らにとってもビジネスのネタがひとつでもふえればうれしいに違いありません。
買ったばかりのフランス人デザイナーによる帽子をかぶって行き、彼らを喜ばせてあげようと思っていたところ、台風で朝からバケツをひっくり返したような雨。帽子どころか長傘に夏用のロングブーツで出かけましたが、日頃の行いが良いのかミーティング前には見事に晴れあがりました。ブランド・ビジネスの専門家とあって Aさんの事をちょっと気取った「デキル女」風の方かなと想像していましたが、13歳のお嬢さんを持つ実に優しくてつつましやかな女性でした。
国際ビジネスは環境適応力や語学力、感受性、忍耐を必要とするので女性のほうが向いていると思います。国際ビジネスというのは何よりも経験を積むことが必要ですが、残念ながら日本の女性にはまだまだそういうチャンスがありません。2007年 3月15日号「アジアを狙うオペラ・ビジネス」で紹介させていただいた国際的な音楽コーディネーターたちも日本と香港の女性でしたが、 Aさんといい、文化的な国際ビジネスはまさに女性の活躍の場です。
その昔、ヨーロッパ人は夏や 1月くらいバカンスでお休みと言われていたものですが、20年くらい前から変わっている気がします。これも国際化の波でしょう。社員は交替で休みを取り、会社としては 7月だろう と8月だろうとちゃんと営業しています。ところが、日本はバブルの頃、欧米から「働き過ぎ」と欧米に揶揄され、やたらと休みが増えました。帰りの「ちょっと一杯」も含めると外にいる時間が長いため外国人には「働き過ぎ」に見えたのかも知れませんが、実は仕事の効率がひどく悪い風土なのです。これを改めずして、休みをふやせば日本が没落するに違いないと当時思いましたが、まさに予想的中です。
どこの国でも「勤勉は美徳」で「悪」ではありません。香港のビジネス・パートナーたちは香港や中国本土が長期休暇期間に入ると日本やベトナム、タイなどへ競って出張に出て行きます。私自身は 365日仕事をしていますが10数時間働く日もあれば数時間だけの日もあります。通勤時間がいらない上に、だらだらと続く社内会議はないし、読んでももらえない報告書を書くこともない、決裁を待つ必要もないので何人分もの仕事をすることができます。上述のパリからのお客様とのミーティングでは中国以外にも2つ新しいプロジェクトが立ち上がりました。彼らも私と同じ「一人企業」ですので、良いお土産を差し上げることができ嬉しく思うと同時に私にもヨーロッパとの太いつながりができました。これも勤勉の賜物です。
河口容子

[226]VTICsの魅力

 ひところ、経済界ではBRICs の話題でもちきりでした。BRICs とは経済発展著しい、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を取ったもので、最後のsは複数形、もしくは南アフリカをさすと言われています。いずれも大国かつ資源国で、大国主義、つまり数の多さを優位とする考え方を声高に唱えるのは好ましくないことと思っていました。それに、ブラジルは長い移民の歴史があるものの日本からはあまりにも遠く、ロシアとインドは文化的には馴染みがあっても経済面ではいまひとつぴんと来ない日本人が多いのではないでしょうか。
 最近出て来た用語はVTICs、ブラジルとロシアをはずして、ベトナムとタイを入れたアジアの経済発展国をさしています。ベトナムもタイも日本からの投資が多く、観光客も多く訪れているのでこちらは多くの方がイメージしやすいし、大国と小国の長所短所をバランス良く比較できるような気がします。
 タイについては日本の大手企業の投資は一巡しており、電気電子産業、機械・金型産業にターゲットを絞り、これらの産業が集積する日本の地方都市を巡回して投資セミナーが行われています。昨年のクーデター以来の政情不安と通貨の高さ、日系企業どうしの競争もすでに出始めています。
 一方、ベトナムについては昨年安倍首相就任後の第一号国賓がベトナムのズン首相であり「日本はベトナムをアジアの平和と繁栄の戦略的なパートナー」とする声明が出されました。近年、ベトナムにとって日本は大きく、誠実な投資国であり続けましたが、昨年の秋、韓国の高炉メーカーである POSCOが11億ドル強を投じて熱延広幅帯鋼工場を建設する計画を発表し、ベトナムにとり韓国がダントツの投資国になりました。すでに冷延広幅帯鋼工場が建設中で、材料となるスラブはPOSCO がインドに高炉―転炉―連続鋳造設備を作り、そこからベトナムへ供給し、不足するものは韓国から供給というスケールの大きさです。韓国は中小企業のベトナム進出もさかんで、まさに国家ぐるみでベトナムを取りこんでいるかのように見えます。
 タイ、マレーシア、インドネシアの 3国とそれぞれ摩擦を抱えているシンガポールもベトナムに急接近。中国リスクを嫌気した台湾企業もベトナムにシフトを始めています。マレーシア政府機関に勤務する日本人によれば「これではベトナムにすら負けてしまう」と国家をあげての産業政策の見直しがマレーシアではダイナミックに進んでいるそうです。一方、日本は、広東やタイで操業している日系企業をベトナムに誘致するというもので現地でベトナムへの投資セミナーが行われています。2012年までのプロジェクトとしてアジア開発銀行の手ですすめられている拡大メコン川流域諸国のインフラ整備が機能するようになれば、アセアンの貧困国であったカンボジア、ラオス、ミャンマーもうるおうと同時に更に中国、インドへの道も近くなり、VTICsが一斉につながるという訳です。
 日本企業の業績は良いものの、一般庶民には景気拡大感がないと良く言われます。それは空洞化した日本で仕事をし、日本の市場しか見ていないからだと思います。海外に出れば日本企業の活力やそこで働く日本人の姿に感動することもしばしばです。
河口容子