[279]動き出すブルネイ

 東京のホテルで開かれたブルネイ投資セミナーへ行ってきました。冬空に翻るブルネイ国旗はなぜか似つかわしくありません。いつも冬場に開催されるのは、緑したたる熱帯雨林の動画を見せて参加者の関心をさらに募らせる意図なのか、はたまた、ブルネイからのダト・ハムディラ第一次資源産業省副大臣一行が天然の寒さを味わってみたかったのかよくわかりません。ブルネイは石油、天然ガスの約 9割を日本に輸出しています。日本から見れば石油、天然ガスの11%をこの三重県サイズの小国に依存しています。直行便が飛んでいない事もあってか一般の日本人の認識と感謝もいまひとつと感じます。実はブルネイの王家はずっと日本とは良好な関係を保っており、旧日本軍の給油地でもありました。特に旧海軍関係の方々の中には「戦艦の停泊するブルネイ」を懐かしむ方もおられます。
 ブルネイのボルキア国王は世界一のお金持ちで知られていますが、イスラム教の最高指導者であり、首相でもあります。「独裁者」と言えばそれまでですが、人口は40万人(うち10万人が外国人労働者)、税金はほとんどなく、教育、医療はほぼ無料、おまけに自然災害もない、という極めて天国に近い国です。日本で人口40万人規模の自治体はいくらでもありますが、こんな暮らしは絶対あり得ず、いくら石油のおかげとはいえ、ボルキア国王の手腕とストレスは想像を超えるものがあります。英国空軍で鍛えた飛行機の操縦とポロでうさ晴らしていると聞いたことがあります。
 石油資源は未来永劫にあるわけではなく、早くから石油に代わる新産業興しが模索されています。私自身は手工芸品のマーケティングについて3日間セミナーを開いたことがありますが、香港のビジネスパートナーも水産業に関する講演を行なったことがあるらしく、不思議なご縁でつながっているのに改めて驚いたことがありました。また、前ブルネイ大使が現在和歌山県知事であることからブルネイと和歌山県との文化、教育、エコツーリズムでの交流が始まっています。私の母は和歌山県の出身なので、ますますブルネイから目が離せません。
 2010年には日本企業の投資によるメタノール・プラントが稼動の予定です。産油国であり、アジアのど真ん中に位置し、需要が高まるアジア市場と北米の西海岸までカバーできるのが強みだそうです。その他には水産業、これも熱帯雨林の中で汚染のない環境、自然災害がない、過去に抗生物質が使われていないというのが強み。イスラム教徒は「ハラル」という教義に則って処理された食品を食べなければいけませんが、厳格なイスラム教国であり清潔なブルネイでのハラル加工は地球で10億人を超えるイスラム教徒へのビジネスにつながると考えているようです。日本の方はあまりご覧になったことがないかも知れませんがハラル食品にはすべて「ハラル認定」のラベルが貼られています。
 何せ今までは石油依存体質だったため、大きな企業がほとんどなく国民の6-7割は公務員でした。当然のことながら一定以上の学力はあるものの、意欲には欠けていた気がします。日本が大好きな国王ゆえ、産業を興し、次代のブルネイの基礎づくりを日本企業に期待していることは間違いありません。動き出すブルネイがどう変わるのか興味しんしんです。
河口容子
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先日トークショーでインテリアグッズの会社を経営している知人の女性がテーブルの上に飾られたバラを見て「バラは西洋のものだと皆さんは思いこんでいるでしょうが、アジアの原種がヨーロッパにわたり園芸品種として改良されてきたものです。」と言いました。さっそく調べてみたところ、日本にもハマナス、ノイバラ、テリノイバラという原種(野生バラ)があり、中国のコウシンバラをはじめアジアの原種が18世紀末から19世紀初頭にヨーロッパに渡った結果、現在のバラになったわけです。花のみでなくヨーロッパを魅了したのはアジアのシルクや陶器、香辛料などです。現代では西洋がグローバル・スタンダードになっているような気がしますが、その原点はアジアにあることを彼女の発言は思いおこさせてくれました。そういえば世界の四大文明に欧米はありません。
アセアン諸国でそれぞれの文化を生かしたリビンググッズが世界の注目を浴びています。日本でも何度かアジア雑貨ブームはありましたが、一時市場にあふれたチープな土産物風の製品とは違い、洗練された高級品、あるいは工業デザイン的にすぐれた製品が続々紹介されるようになっています。
読者の皆様は10のアセアン諸国の国名と場所がおわかりでしょうか?ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、これらの国々は大陸の国もあれば島国もあり、言語もさまざま、宗教も仏教、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教があり、民族も少数民族を入れると基本的には多民族国家、政治体制も王国から社会主義国まであります。日本の 5倍の国土に 2億人を超す大国インドネシアもあれば、三重県の広さに30数万人の人口という小国ブルネイまで、一人あたり GDPでは一番上のシンガポールと下のカンボジアでは実に70倍以上の格差があります。また、歴史的背景も乾燥地帯が多く住める国土が少ない中国からの南下(インドシナ)や人口の増加により東西に拡大したインド(インドネシア)や西洋の植民地支配(シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ミャンマーは英国、カンボジア、ベトナム、ラオスはフランス、インドネシアはオランダ、フィリピンはスペインと米国の影響を受け、多彩な文化を誇っています。また、家具に使われるチーク、マホガニー、ラタン、ウオーターヒヤシンスを始めとする天然素材の宝庫でもあります。
最近、アセアン諸国の日本離れが起こっていることは2005年 3月16日号の「アセアンから始まる春」でも触れましたが、どうも中国へ顔を向け出したようです。もともとアセアンの北側は中国との国境であり、アセアン諸国でビジネスを多く牛耳っているのは華人たちです。中国の台頭とともに危機感を持つ日本人は多いようですが、私自身はあまり気にしていません。今現役で働いている日本人は日本がアジアで一番であることが当然という意識になっており、その地位を追われる立場として何となく不安になるのだと思うのです。しかしながら、長い歴史から見れば、急に中国やアセアン諸国が生まれたわけでもなく、それぞれの歴史や人々の暮らしがずっとあった訳です。むしろ彼らの文化の伝達地点の東端が日本でした。その事実を無視したり蔑視してきた日本人こそ反省しなければいけないと思います。日中関係も重要ですが、大切なのはアジアの一員として日本がこれからどうこれらの国々とつきあっていくかです。幸い、アジア人は違いを融和させる感性を持っています。日本も含めアジア各国がそれぞれアジアでひとつだけの花になれればいいと思います。

河口容子