[138]アジアでひとつだけの花

先日トークショーでインテリアグッズの会社を経営している知人の女性がテーブルの上に飾られたバラを見て「バラは西洋のものだと皆さんは思いこんでいるでしょうが、アジアの原種がヨーロッパにわたり園芸品種として改良されてきたものです。」と言いました。さっそく調べてみたところ、日本にもハマナス、ノイバラ、テリノイバラという原種(野生バラ)があり、中国のコウシンバラをはじめアジアの原種が18世紀末から19世紀初頭にヨーロッパに渡った結果、現在のバラになったわけです。花のみでなくヨーロッパを魅了したのはアジアのシルクや陶器、香辛料などです。現代では西洋がグローバル・スタンダードになっているような気がしますが、その原点はアジアにあることを彼女の発言は思いおこさせてくれました。そういえば世界の四大文明に欧米はありません。
アセアン諸国でそれぞれの文化を生かしたリビンググッズが世界の注目を浴びています。日本でも何度かアジア雑貨ブームはありましたが、一時市場にあふれたチープな土産物風の製品とは違い、洗練された高級品、あるいは工業デザイン的にすぐれた製品が続々紹介されるようになっています。
読者の皆様は10のアセアン諸国の国名と場所がおわかりでしょうか?ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、これらの国々は大陸の国もあれば島国もあり、言語もさまざま、宗教も仏教、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教があり、民族も少数民族を入れると基本的には多民族国家、政治体制も王国から社会主義国まであります。日本の 5倍の国土に 2億人を超す大国インドネシアもあれば、三重県の広さに30数万人の人口という小国ブルネイまで、一人あたり GDPでは一番上のシンガポールと下のカンボジアでは実に70倍以上の格差があります。また、歴史的背景も乾燥地帯が多く住める国土が少ない中国からの南下(インドシナ)や人口の増加により東西に拡大したインド(インドネシア)や西洋の植民地支配(シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ミャンマーは英国、カンボジア、ベトナム、ラオスはフランス、インドネシアはオランダ、フィリピンはスペインと米国の影響を受け、多彩な文化を誇っています。また、家具に使われるチーク、マホガニー、ラタン、ウオーターヒヤシンスを始めとする天然素材の宝庫でもあります。
最近、アセアン諸国の日本離れが起こっていることは2005年 3月16日号の「アセアンから始まる春」でも触れましたが、どうも中国へ顔を向け出したようです。もともとアセアンの北側は中国との国境であり、アセアン諸国でビジネスを多く牛耳っているのは華人たちです。中国の台頭とともに危機感を持つ日本人は多いようですが、私自身はあまり気にしていません。今現役で働いている日本人は日本がアジアで一番であることが当然という意識になっており、その地位を追われる立場として何となく不安になるのだと思うのです。しかしながら、長い歴史から見れば、急に中国やアセアン諸国が生まれたわけでもなく、それぞれの歴史や人々の暮らしがずっとあった訳です。むしろ彼らの文化の伝達地点の東端が日本でした。その事実を無視したり蔑視してきた日本人こそ反省しなければいけないと思います。日中関係も重要ですが、大切なのはアジアの一員として日本がこれからどうこれらの国々とつきあっていくかです。幸い、アジア人は違いを融和させる感性を持っています。日本も含めアジア各国がそれぞれアジアでひとつだけの花になれればいいと思います。

河口容子