[139]世界の起業家事情

 国際調査機関のグローバルアントレナーシップ・モニターが世界の35の国と地域で「起業率」の調査を行いました。トップはペルーで40.3 %、次にウガンダで31.6 %、第 3位がエクアドルで27.2 %です。私はこれらの国々に行ったことがありませんが、10人のうち 3-4人が自分でビジエスを始めるということは、資本があまりなくても、あるいは特に優れたスキルがなくてもビジネスを開始できる環境にあるか、「雇用される職場」が少ないかのいずれかにあたると思います。
 実はこのニュースは香港で話題となりました。香港はもともと「老板(ラオパン)」、個人商店主つまり起業家の伝統のあるところです。ところがこの調査では何とビリから 3番目で3%という数値になりました。香港中文大で学ぶ本土の学生が起業志向が強いのに対し、香港人の学生は大企業に就職したがると言います。広東省深センでの起業率は何と11.6%で米国の11.3%より少し上です。それだけビジネスチャンスがまだまだ本土にはあるということでしょうか。一方、香港には安定した職場がふえているとも言えます。
 さて、だんとつビリはやはり日本で1.5%。 100人いれば1人か2人しか起業しないサラリーマン大国です。起業といっても今話題のヒルズ族のようなIT企業から小さな雑貨店や私のような専門職的なサービスの会社まで含めてこの数字しかありません。理由としては、まずはコストが何でも高すぎることです。起業してすぐ大黒字になるケースはまれですから、かなり資金的に余裕がなければ起業ができません。大企業、知名度優先のビジネス社会になっていますから、新規の小さい企業が実力を認めてもらうにはかなりの努力と能力を必要とします。起業するのが偉いとは思いませんが、起業家が少ないと活力や柔軟性に欠ける社会にならざるを得ません。一方、納税者番付けのトップは初めてサラリーマンでした。成果主義の導入を象徴するもので素晴らしいと感じますがこれでますます起業家が減るのではないかと心配もしたりします。
 マニラの日本大使館に勤務する日本人女性から聞いた話です。「マニラのホステスたちはお金をためて郷里で雑貨屋をやりたいと必ず言うんです。田舎じゃたいして売れないだろうし、仕入ルートをきちんと確保しているわけでもないから儲かりもしないでしょうに。」ところが、これはマニラのホステスだけの話ではなく、香港人のちょっとお金を持っている人の間でも本土の親戚をたよって本土でお店を持つのが流行っていると聞きます。この話を上海で合弁企業をもつ日本人の男性にしたところ、上海でも故郷でお店を持つのが流行っているとか。日本人でも故郷に錦を飾るという言葉がありますが、私の持つイメージは立身出世して派手な身なりで郷里に帰り御殿のような家を建てるというようなもので、故郷でお店をやりたいと言う話はまず耳にしません。この違いは謎です。
河口容子