[167]「ノー」から生まれたプレゼント

2003年 8月 7日号で「ノーは親切、論争は親近感」というのを書かせていただきました。日本人は「ノー」と言うのも「論争」も不得意です。ましてやそれが、親切であったり、相手に親近感を覚えてもらうわけがない、と思われた方もあるでしょう。ところが、その通りの出来事がクリスマスを目前にした日におこったのです。
 私のオフィスに英語で電話がかかって来ました。相手は2005年11月10日号「ローレンスと呼んで」のローレンス、シンガポールのコンサルタント会社の CEOです。実は 2ケ月ほど前に彼からある業界の役員クラスの方を聞き取り調査をしてまわる仕事の依頼を受けました。期間は英文レポートも含め「明日から 1週間」で10社ほどありました。報酬はびっくりするほど安く(パートタイマーのリサーチャーなら喜んで引き受けたかも知れませんが、プロに依頼する仕事としてはあきれた金額でした。)私はその期間は予定がすでにぎっしりでしたので即お断りしました。断らないと先方も次のアクションを起せないからです。
 ついでに私のおせっかい心が活躍し始め「日本の企業で役員クラスの方が見ず知らずのインタビュアーに即応じてくれることはまずありません。10社のうち何社かは断られるでしょうが、まずアポを取るだけで大変です。それにその企業はどこにあるのですか?」と東京から大阪や名古屋までの交通費の金額を明示し、「出張する場合は交通費を出さないとその報酬では無理です。」などと、その他気付いたことをいくつか指摘しました。たぶんこの条件を提示されたプロのコンサルタントは「馬鹿にして」と腹がたったことでしょうが、単に知らないだけかも知れない、それなら教えてあげよう、というのが私のねらいでした。
 日本なら「こうるさいおばさん、余計なお世話」と思われて終わりですが、外国人は違うのです。そして上記の電話につながるのですが、彼いわく「内容についてはあなたのご指摘のとおりでした。それにしてもひどいもので依頼した日本人で返事をくれたのはあなただけでした。」仕事の依頼をするくらいなら、まったく知らない人には頼まないはずですが、皆うんともすんとも連絡をしないなんて日本ビジネスマンの恥です。即「ノー」と言ったことと、気付いたことを述べたことにより彼は私の事を信頼できる人間と思ったらしく、もっと条件の良い仕事を 2件くれました。
 メールで送られてきた契約書を読むと仕事相手の条件は「政府機関の仕事に携わり評価されている人、もしくはビジネスのエキスパート、もしくは企業経営者、もしくは大学などで教えている人」とあります。もしくは、ではなくてかろうじて全部私にあてはまるではないですか、すごい、と気分を良くしてサインをしたページをとりあえず FAXしたところ、山のような書類が送られて来ました。
「書類をたくさんありがとうございます。ゴージャスなクリスマス・プレゼントにめまいがします。」とメールをしたところ「プレゼントを気にいってくれるといいのですが。ジェントルマンらしいプレゼントを贈れなくてごめんなさい。」と矢のように返事がかえってきました。香港のパートナーたちともそうですが、海を隔てて一緒に仕事をする場合、ちょっとした一言で親近感や連帯感が生まれるものです。
河口容子