[085]上昇した日本の競争力

  IMD(スイスのローザンヌにある国際経営開発研究所)が世界競争力ランキングを発表するシーズンがやってきました。わたしも 2年前に「日本がわかる!」シリーズで取りあげました(2002年 5月 9日号、タイトルは「国際競争力」)のでお時間があればそちらもご参照ください。このランキングは経済力、政府の効率性、ビジネスの効率性、教育や保健衛生面も含めたインフラの 4分野にわたり、計 323項目を指数化して算出するものです。対象は60の国と地域です。客観的に国力を知るには妥当なランキングと私は受け止めています。
総合ランキングでは日本は23位で、昨年は25位、 1昨年は30位でした。90年代初めまでのトップクラスには及ばないものの、汚名挽回をしつつあるといえます。今年の 1位は米国ですが、 2位はシンガポール、 6位香港、12位台湾、16位マレーシアとアジアの国々にこれだけ追い抜かれています。また中国本土が24位でぴったり日本をマークしています。この「総合ランキング」はあくまでも総合で、項目別に見ると日本は実にいびつな国家なのです。特許付与件数、外貨・金準備高、中等教育普及率、寿命の長さは何と世界でトップ、研究開発費は 2位。ところが、起業家精神、法人税率は最下位です。大学教育が競争経済のニーズに適合しているかという項目では最下位から 3番目の58位です。
上にあげた 4分野別のランキングで見ると経済力は 1位は米国、 2位は中国本土となり、日本は17位。シンガポール、タイ、香港、インド、マレーシアは日本より上です。
政府の効率性では、 1位はシンガポールで、 2位はオーストラリア、 3位香港、日本は37位。マレーシア、台湾、タイ、中国本土、インド、韓国は日本より上位です。
ビジネスの効率性では、これまた日本は37位で、 1位は米国、 2位香港。シンガポール、台湾、マレーシア、インド、タイ、韓国、中国本土は日本より上位です。


 インフラ分野については米国についで日本は 2位。この辺が総合ランキングを押し上げている原因でしょう。
 上記の数字から見れば、日本はもはやアジアでも中程度の国ということになります。また、こんな国で起業した自分は「勇気がある人」なのか「馬鹿な人」なのか。ビジネスの効率性の悪さや法人税の高さからいけば今後もリストラは続くでしょう。では起業もできない風土であったら失業者だらけとなってしまいます。政府の効率性という分野は本来小国有利のはずですが、中国やインドという面積も人口も大きい国にまで抜かれている始末です。政府も大リストラが必要なようです。
  IMDもアジアの国々の台頭の理由を戦後の日本と同じパターンと分析しています。これら上位のアジアの国々はまず先進国の下請けとして機能し、得た収益が購買力を産み、中産階級を創出し、個人資産をふやしていきます。次にはその国の企業が自前のブランドで製品を輸出し始めます。最初は国内向けだった安物があっという間に国際商品にまで発達するのです。
 総合ランキングを見て思うのは英語圏ないしは英語の得意な国家が上位にならんでいることです。香港、シンガポール、マレーシア、インドは英語で完全にビジネスが行えます。中国も大都市のビジネスエリートには英語の話せる人がどんどん増えています。言語の問題のみならず、日本は新しい国家モデルを築けるのでしょうか、それとも過去の国になるのでしょうか。
河口容子
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