[074]中国の消費市場

 先週は日本香港協会と香港貿易発展局共催の春節(中国の旧正月)パーティがありました。本来の春節より随分遅れての開催ですが、東京は春らしい陽気となり、中国本土とのCEPA(貿易自由化)協定も1月から発効、香港も活気が戻ってきたと聞き、まさに「春」らしいパーティとなりました。
同協会の理事に私のことを「アセアン各国で講演や指導をされ、また、香港にはビジネスパートナーをお持ちで中国本土で日本製品のセレクトショップの展開やライセンスビジネスもなさっています。」と紹介していただきました。香港および本土 4都市を拠点にしていると説明すると、理事は「日本女性もたいしたものだなあ。」とおっしゃいました。いろいろな意味にとれる発言ですが、香港人の気質や本土でのビジネスを熟知されている方だけにお褒めの言葉であろうと私は素直に受け止めました。
 香港ビジネスマン(特にオーナー経営者)の仕事量と決裁スピードはすさまじいものがあります。仕事仲間であっても評価は厳しく貢献度がなければものの見事に切り捨てられます。常に自分の腕を磨く、先読みをする、共に益となることを考えることが必要です。
 さて、中国本土の消費市場ですが、タイ・バーツを皮切りに始まったアジア通貨危機のあと中国に目が向き始めた頃、市場としての中国も大きい、何せ日本の10倍の人口がいる、というものでした。確かに統計上そのくらいいます。そのうち、貧富の差の激しい国だから全員とまではいかなくても日本と同じくらいの市場はある、と修正されました。最近の経済誌によれば、日本人並みの消費ができるのは4000万人くらい、という数字が出ていました。私がビジネスをしている感覚ではこの数字は妥当な気がします。
 以前にも触れましたが、中国というところは地域ごとに気候はもちろん、言語や文化が違います。当然、消費性向も異なります。上海で売れたものがそのまま広州で売れるかというとそうはいきません。意外や意外、少量多品種展開が必要となります。
 日本人は見栄っ張りで勧められると高い商品でも無理をして買ってしまいますが、中国人はお金持ちでもなるべく安く買える方法を取ります。日本のデパートのように目抜き通りに大型店舗を構え、きれいにディスプレイをし、店員がうやうやしく接客をすれば高くても売れる、という所ではありません。また、貧富の差が激しいため、ターゲットとする購買層をいかに上手に囲いこむか、あるいは自分の持っている購買層にいかに合った品揃えをするかが大事です。
 もうひとつ、日本における日本製品と中国における日本製品の位置づけは違うことを忘れてはいけません。中国における日本製品は輸入品で、イタリア製や米国製、フランス製などと競争しなければならないのです。しかも、中国のライフスタイルは西洋式ですから、和風のライフスタイルにしか合わないものは当然売れません。また、中国人は非常に流行に敏感です。ある日本の商品群を現地で市場調査したところ、「流行遅れ」との回答が圧倒的に多かったのはショックでした。日本の最新モデルを出したにもかかわらずです。おそらく長引く不況により日本のモデルが保守的になっているためと思われます。
 日本の閉塞感から、新たな市場を求めて中国へという発想は間違いではありません。しかし、事前の調査や市場にあわせた対応が必要です。「市場は市場に聞け」という言葉どおりに。
河口容子

今の中国との日本

 最近、香港人の昔からの知人から日本製の消費財を中国に輸出したいので手伝ってほしいとのメールが飛び込みました。彼はビジネスマンで学者でもあり、これから中国本土に展開する小売店チェーンの代表取締役になったのだそうです。彼はどんどん自分の会社を作っていく人ですが、もともと頭が良い上に香港人特有のクイックアクションですから、頼まれた内容を追いかけ、返事をするだけでも夜中までかかってしまいます。ところが現地の夜中の1時や2時でも出張していない限りちゃんと返事は来ます。長年一緒に仕事をしているやはり香港人の男性に聞いたところ面会するのに6時間待って4分話せただけというくらいの忙しさのようです。

 今回、気づいたことがいくつかあります。中国の消費者は「日本製」にあこがれるらしく、ちょうど日本人が「フランス製」や「イタリア製」のタグがついているだけで魅かれるのと似たものがあります。たとえば同じメーカーの化粧品でも現地生産と輸入品では雲泥の差があるようです。これは日本人として多いに誇りにしていいし、感謝すべきことでしょう。

 ところがです。いざ、探そうとしてもないのです。大きいメーカーに行けば、太宗の製品は海外生産、特に中国で生産をしていたりします。それでも、それはいい話だと日本製の商品カタログを無理矢理集め、積極的に対応してくれます。当然、日本製商品というのはデフレ・スパイラルの日本に住む消費者から見れば「割高感」のある商品となります。それでも問題はないと香港から来たバイヤーは言いました。もはや日本製の高級品は中国で売れ、中国製の安価なものを日本人が喜んで買い、という構図が一部では成り立っているのです。

 一方、上海に合弁企業をもつ日本人の知人によれば上海では年収2,000-3,000万円の人は小金持ちでしかありません。しかも、その人数は日本での人数の比ではないとテレビでも言っていました。中国では人件費が安いからモノが安く作れる一方、そればかりではないことをこの話は物語っています。

 いくつか中小企業にも引合をかけましたが「中国ではうちのような高いものは売れないでしょう。コピー品が出回るかも知れないので嫌です。」と断られたこともありました。これも正論ですが、高くても買える人は日本よりたくさんおり、またコピー品はどこかで公開されている限り出るのです。先日、見本市に出かけましたが、中国人の来場者もたくさん見かけました。中国市場へ出したからコピー品が出回るというレベルの発想は幼稚としか言えません。ある人の話によれば、福井は鯖江の眼鏡工場では高級品の作れるところには中国人バイヤーが行列しているとのことでした。一方、日本で売られている安い眼鏡は中国製がふえています。

 この香港の知人もそうですが、典型的な中国型トップダウンの経営です。自分でさっさと決めて鬼のように働きます。「遅れたらチャンスを逸する」と。一方、日本企業と話をするとほとんどは官僚的サラリーマン世界というか、とにかく何でも時間がかかり過ぎです。このギャップを埋めるのに大変苦労をします。この何でもけたたましいほどに変化の激しい時代、日本だけが取り残されるような不安を覚えたのは確かです。

2002.07.18

河口容子