2003年 8月 7日号で「ノーは親切、論争は親近感」というのを書かせていただきました。日本人は「ノー」と言うのも「論争」も不得意です。ましてやそれが、親切であったり、相手に親近感を覚えてもらうわけがない、と思われた方もあるでしょう。ところが、その通りの出来事がクリスマスを目前にした日におこったのです。
私のオフィスに英語で電話がかかって来ました。相手は2005年11月10日号「ローレンスと呼んで」のローレンス、シンガポールのコンサルタント会社の CEOです。実は 2ケ月ほど前に彼からある業界の役員クラスの方を聞き取り調査をしてまわる仕事の依頼を受けました。期間は英文レポートも含め「明日から 1週間」で10社ほどありました。報酬はびっくりするほど安く(パートタイマーのリサーチャーなら喜んで引き受けたかも知れませんが、プロに依頼する仕事としてはあきれた金額でした。)私はその期間は予定がすでにぎっしりでしたので即お断りしました。断らないと先方も次のアクションを起せないからです。
ついでに私のおせっかい心が活躍し始め「日本の企業で役員クラスの方が見ず知らずのインタビュアーに即応じてくれることはまずありません。10社のうち何社かは断られるでしょうが、まずアポを取るだけで大変です。それにその企業はどこにあるのですか?」と東京から大阪や名古屋までの交通費の金額を明示し、「出張する場合は交通費を出さないとその報酬では無理です。」などと、その他気付いたことをいくつか指摘しました。たぶんこの条件を提示されたプロのコンサルタントは「馬鹿にして」と腹がたったことでしょうが、単に知らないだけかも知れない、それなら教えてあげよう、というのが私のねらいでした。
日本なら「こうるさいおばさん、余計なお世話」と思われて終わりですが、外国人は違うのです。そして上記の電話につながるのですが、彼いわく「内容についてはあなたのご指摘のとおりでした。それにしてもひどいもので依頼した日本人で返事をくれたのはあなただけでした。」仕事の依頼をするくらいなら、まったく知らない人には頼まないはずですが、皆うんともすんとも連絡をしないなんて日本ビジネスマンの恥です。即「ノー」と言ったことと、気付いたことを述べたことにより彼は私の事を信頼できる人間と思ったらしく、もっと条件の良い仕事を 2件くれました。
メールで送られてきた契約書を読むと仕事相手の条件は「政府機関の仕事に携わり評価されている人、もしくはビジネスのエキスパート、もしくは企業経営者、もしくは大学などで教えている人」とあります。もしくは、ではなくてかろうじて全部私にあてはまるではないですか、すごい、と気分を良くしてサインをしたページをとりあえず FAXしたところ、山のような書類が送られて来ました。
「書類をたくさんありがとうございます。ゴージャスなクリスマス・プレゼントにめまいがします。」とメールをしたところ「プレゼントを気にいってくれるといいのですが。ジェントルマンらしいプレゼントを贈れなくてごめんなさい。」と矢のように返事がかえってきました。香港のパートナーたちともそうですが、海を隔てて一緒に仕事をする場合、ちょっとした一言で親近感や連帯感が生まれるものです。
河口容子
[166]つけこまれやすい日本人
2003年 1月16日に「国際人としての覚悟」というタイトルで書かせていただいてからもう丸 3年近くになります。日本企業の国際化もどんどん進み、最近ではおやこんな会社がと思うようなところがアジアにしっかり工場を持っていたり、販売拠点を持っていたりします。
私の取引先で従業員10人強の雑貨を扱っている企業は一部の製品を中国の契約工場で作っています。数年前全製品の 1-2割を中国の契約工場で生産することから始めましたが、今では 8割以上になっています。ところが、最近になり 2-3年かけてベトナムへ生産地を移転したいと言い始めました。事の発端は、ある製品の詰め物に特殊な素材を使うよう指示したにもかかわらず、抜き打ち検査をしたところ「ゴミが詰められていた」という事件です。「そんなに日本人が憎いんでしょうか」と営業の責任者は怒り爆発です。以前から品質向上のため社員を何回も工場へ送ってみたものの、滞在中は指示どおりにやるものの、日本へ帰れば元の木阿弥です。こんな相手では信頼関係はもう築けない、というものです。
合弁相手に資本金を持って逃げられた話、代金を払ってくれない話(これは今でも数え切れませんが)、コンテナをあけたら商品のかわりに砂が入っていた話など中国ビジネスのこわい話は枚挙にいとまがありません。ひっかかった人は中国人を悪人のように言いますが、私は次のように考えます。どこの国にも悪人はいますし、人口が多ければ悪人の絶対数も多い、また競争が厳しい社会で法整備が遅れているとなれば、儲けるためには手段を選ばない、あるいは目先の損得優先という人も多いだろうということです。日本人は全般的に性善説でものごとをすすめます。また、他人から得る信用であるとか中長期にわたる客先との友好関係を大事にするため、小さいことは黙って我慢してしまいがちです。そこをつけこまれているケースが多いと思うのです。
上の取引先のケースでも、どんな経緯か知りませんが、中国の貿易会社が仲介をしています。この貿易会社の社長は日本語が得意です。上の取引先には貿易の経験者は誰一人いません。おそらく日本の商社を通すより経済的とふんだのかも知れませんが、私から見れば中国側に自在に操られても仕方がないシチュエーションを自ら選んだとしか言い様がありません。おまけにこの会社は価格交渉を一切しないそうです。いったん商品の価格を決めたら、何が起ころうとその価格で買い取っているそうです。「私なら不良品が多ければペナルティとして値引き交渉、製造個数が増加すれば単価を下げてもらうなど交渉しますが。」と言うと「そんな面倒なことを」と言わんばかりの顔をされます。
「信賞必罰」悪く言えば「アメとムチ」。日本人はほめ下手な上に、ぶつぶつ文句は言うものの、論理的にきちんと賠償請求をするなんてこわくてとてもできない臆病者です。上にあげた「詰め物にゴミ」の場合でも日本人は馬鹿にされたと怒りますが、中国人は中国人で「外から見えもしないのに、影で点検してぶつぶつ言う日本人は何とネクラな性格」と思っているかも知れません。
貿易というのは経験と忍耐、工夫が必要です。私は日本人との違いをよく観察、分析し、注意すべき点と同時に相手の良いところを見つけるようにしています。日本人どうしならはっきり言わなくても阿吽の呼吸で通じますし、むしろ露骨な表現は相手に失礼などというビジネス社会です。ところが相手が外国人の場合はこれでもか、これでもかと言っておかないと、「言わなかったあなたが悪い」といわんばかりの言い訳で逃げられてしまうことがあります。もちろん、言うだけでなく、きちんと文書で残すことが大切で、私は電話で大切な事を話した場合はあとで必ず内容の確認のメールを入れ記録に残します。時系列的に整理しておけば、複雑な経過をたどったり、途中で中断した案件が復活する場合にも経緯を調べやすくなります。
河口容子